2014年肝高の阿麻和利公演の舞台©あまわり浪漫の会
沖縄に古くから伝わる組踊(台詞をメインに歌と舞いで構成された沖縄の伝統歌舞劇)をベースに、「演劇」「舞踊」「音楽」の要素を巧みに取り入れた舞台「現代版組踊」。演者は中学1年から高校3年生の若者たちで編成されています。「肝高(きむたか)の阿麻和利(あまわり)」を筆頭に、「オヤケアカハチ~太陽の乱~(八重山)」、「鬼鷲(うにわし)~琉球王尚巴志(佐敷~読谷)」など、それぞれの土地にまつわる歴史物語を披露しています。
現代版組踊を劇場で見たことがない方も、県内外のイベントなどで「海よ 祈りの海よ 波の声響く空よ~♪」という歌詞で始まる『ダイナミック琉球』の歌とともに舞う、現代版組踊のダイジェストを目にしたことがある方も多いはず(こちらのYouTubeチャンネルから”肝高の阿麻和利”舞台のあらすじなどとあわせてご確認いただけます。)。
演じる子どもたちの表情はみないきいきとしています。なぜ彼らは現代版組踊に魅了され演じているのでしょうか。今回はリハーサルにお邪魔して子どもたちの熱気を肌で感じつつ、現代版組踊を生み出した演出家・平田大一(ひらただいいち)さんにお話しを伺ってみました。
最初はたった7人からスタートした現代版組踊
ー現代組踊が生まれたきっかけは何だったのでしょうか?
平田:1999年に旧勝連町(現:うるま市)の教育委員会で「子どもたちの感動体験と居場所作り」「ふるさと再発見」「子どもと大人が参加する地域おこし」を目的とした舞台の企画が立ち上がり、僕に演出の依頼が来ました。
2000年に勝連城跡は「琉球王国のグスク及び関連遺産群」として世界遺産に登録されましたが、勝連城(かつれんじょう)の10代目城主「阿麻和利」は長い間「逆心」「逆賊」の威名を轟かせていました。
しかし「どうも、違う部分があるのでは?」という解釈も地域の人々には根強くあったんです。昔の文献にも彼のことを「肝高(きむたか:志が高い)」とする表現もありますし。時代の闇に閉じ込められていた阿麻和利に光を与えたい。そんな地域の思いから、今までのイメージを一新するストーリーを考えていきました。
ー肝高の阿麻和利を始める以前の与勝エリアの子どもたちの状況はどのようなものでしたか?
平田:当時の子どもたちは「よかちゃー(与勝人)」「かれかっちん」という言い方で自分を卑下していたり、引っ込み思案というか。地元では威勢がいいけど外に対して劣等感を抱いてる。地域に誇りを持ていない感じで、どこか消極的なマインドだったような印象です。
ープロジェクトに対して保護者の反応はいかがでした?
平田:最初はみなさん「自分の子どもに出来るわけがない」と思っていました。中高生は学校や塾、部活に忙しい。親も手一杯なので、練習や送迎問題など新しい活動が増えること自体に抵抗があったようです。しかも「にーぶいくみおどり(ねむくなる組踊)」と言われるくらい組踊に馴染みも興味もない(笑)。
まずは沖縄文化の組踊を継承しつつも、今の音楽やダンスを積極的に取り入れて中高生が興味を持って参加しやすい演出を心がけました。大型免許を持っていたので送迎も請け負いました。演出家は見てもらうために客を集める以前に、演じ手も集めなければなりませんから(笑)
ー最初はどのくらいからのスタートでした?
平田:出演者募集の呼びかけへの反響は割と良かったと思ってたんですが、実際ふたを開けたらたったの7人でした(笑)。正直、思った以上に少なかったですね。。。
だからね、最初は何かを教えるよりも練習時間のほとんどを生徒たちとの遊びに費やしました。面白いことをやって少しずつ自分たちのプロジェクトを好きになってもらう。子どもたちと向き合うことに時間をかける。自分や組踊のファンになってもらわないと始まらないですから。最初は引っ込み思案だった子どもたちも、次第に打ち解けて楽しそうにはしゃぐんです。
7人の生徒たちに「みんな楽しかったかい?もし本当に楽しかったなら、ひとつお願いがあるんだけど・・・次は友達を一人さそって来てくれないかな」。そう言ったらね、ちゃんと連れてきてくれたんですよ~。毎回生徒たちの人数が増えてって最終的に150名(笑)。でも、全然練習してないから台詞とか心配なまま当日を迎えたんです。
地域を変えるパワーをもつ、ひとつの「成功体験」
2014年肝高の阿麻和利公演の舞台©あまわり浪漫の会
ー初めての「肝高の阿麻和利」の反応はどうでしたか?
平田:50回の練習を経て勝連城跡での公演を迎えたんですが・・・50回しか練習する機会もなくて、ほとんど真剣に遊んでましたから、台詞もね、間違えだらけだったんですよ(笑)。だけど客席で見ていた保護者や地域の人たちから「がんばれ!」「ちゃんと出来てるぞ~!」とか「かっこいいぞー」って声援が上がってね。
そしたら舞台全体の地面からゾワゾワ~ッと、なんかすごいエネルギーが伝わってきて色んな人たちのエネルギーが共鳴して、空気が変わったんです。2時間半という長い舞台を生徒たちが演じきって、最後には演者も観客もみんな涙を流しながら拍手喝采していました。そのひとつの「成功体験」から子どもたちが目に見えて変わっていきました。当初は1回だけの公演予定でしたが、子どもたちと保護者の熱意で僕の手を離れて18年経った今でも続いている。それは、現代版組踊を通じて子どもたちと大人、地域が変容したからだと思うんです。
現代版組踊は挑戦をし続けることができる場所
ー県内外含め20団体近くにおよぶ現代版組踊を手がけた平田さんが考える「子どもたちの教育」とは?
平田:僕たちに出来ることは「人づくりの種」を蒔くことです。蒔いた種が芽を出し「生命力」と「資質」が化学反応を起こして「目覚める」「気づく」。一つひとつの小さな成功体験から自分に気づきを与え、行動することができる「第3の学び場」でありたいと考えています。
人間のパフォーマンスとして「心・技・体」といわれますが、僕はあえて「体・技・心」としています。型から始まり精神が鍛えられていき技となっていく。型を磨くことで魂がこもる。行動しながら理解する「アクティブラーニング」という言葉もあります。認知しながら動くことで、意味を理解し体と技と心が対話を始める。ここに大きな学びの要素が含まれています。
現代版組踊は「正解」や「成長」をする前の「子どもたちが常に新しい挑戦をし続ける」場。それが人づくりのベースになると考えています。
2016年現代版組踊「鬼鷲~琉球王尚巴志伝」リハーサル風景)
ー現代組踊の「成果」とはどんなことでしょうか?また卒業した生徒たちはどのような道に進んでいるのでしょうか?
平田:多くの子どもたちと対話しながら舞台を作り上げていくため、一人ひとりが持つ「リーダー性」が問われていきます。内気だった子も組踊で経験する「小さな成功」の積み重ねから自分の存在意義を見いだすようです。
その結果、自信をもったり地域に誇りを持つ子になっていると実感しています。歌や踊り、演技のパフォーマンスが多いので「芸能の道」に進むかというと、実はそうでもなくて、介護士や教師、保育士など地域に根ざして貢献出来る仕事を選ぶ子も少なくありません。進路についてはまだ発展途上。蒔いた種の全てが花を咲かせて実をつけるわけではありません。ただ種を蒔かなければ芽を出すことすら出来ません。
現代版組踊は若者の感性を地域と育むための手段
2016年現代版組踊「鬼鷲~琉球王尚巴志伝」リハーサル風景)
ー最後にファミマガの読者にメッセージをお願い致します。
平田:現代版組踊が産声を上げて15年が経ち、沖縄県内外に広がって演じる子どもや鑑賞する人は年々増えていますが、見たことがない人もたくさんいます。どの舞台でも良いから一度、見てほしいと思います。
社会に出たら何の役に立つか確約出来ない芸能活動かと思われるかもしれません。しかし、生産性のないところで生まれるのが「人間の感性」なんです。舞台でチャレンジし続ける子どもたちのエネルギーを感じ取ってほしい。そして自分の感性と向き合ってみて下さい。大人社会への準備期間でもある中高生時代に、自分の感性と向き合い、心のトレーニングをするきっかけは社会に出てからきっと役に立ちます。そのツールとしての文化芸術を僕は地域に繋げていきたいと考えています。
ー最後に、平田大一さんが執筆した7年ぶりの新刊「前略 南ぬシマジマ」をご紹介。シマとの対話を続け、今を全力で挑戦し続ける詩人が紡ぐ言葉とシマジマの美しい写真で綴られたフォトエッセイ。南の島の詩人が己の海を進み続ける生きざまを、今を生きる全ての人たちに届けるメッセージで纏められている。一歩踏み出せる勇気が欲しい、そんな時に読みたい一冊です。
前略 南ぬシマジマ
文:平田大一 写真:桑村ヒロシ
ボーダーインク出版(購入はこちら)
取材を終えて
取材先に到着すると、中高生たちが「鬼鷲」のリハーサル準備でせわしなく目の前を行き交う。緊張感漂う現場で、見ず知らずの私たちにも生徒たちは「おはようございます。」と、凛とした清々しい挨拶を自然にかけてくる。
舞台は演者だけでは完成しない。多くの協力があるからできあがっている。だからこそ「自分が何故ここにいて何をすべきか」をみんなが理解して行動しているように感じました。演じる生徒たち、舞台を支える照明・音響・スタッフ・保護者それぞれにストーリーがある。挑戦をあきらめない人たちがひしめきあいながら創り上げる舞台裏にこそ、現代版組踊の面白さと平田大一氏が蒔いた「人づくりの種」の原点が詰まっているのかもしれません。
10月末から行われる世界ウチナーンチュ大会でも連携行事として伝統組踊と現代版組踊を組み合わせた舞台が行われます。この機会にご覧になってみてはいかがでしょうか?。
【プロフィール】
平田大一(ひらただいいち)
■演出家・脚本家・詩作家・地域活性家
■公益財団法人 沖縄県文化振興会 理事長
沖縄県小浜島生まれ。大学生の頃から「南島詩人」として文筆活動を開始。「文化を基調とした地域づくり、人づくり」をコンセプトに、2000年にうるま市(旧勝連町)「肝高の阿麻和利」の舞台を演出。以来、地域の伝承や偉人に光をあてた舞台「現代版組踊シリーズ」を県内外10ヵ所で展開、これらの活動は全て、今も地域の有志の手によって継承され続けられている。
【主な著書】
「詩集 南島詩人(1994年/富多喜創)」「歩く詩人(2000年/富多喜創)」
「キムタカ!~舞台が元気を運んでくる(2008年/アスペクト社)」
「南風 海風に吹かれて(2008年/かんき出版)」
「シマとの対話(2009年/ボーダーインク)」その他
ライター:monobox株式会社(河野哲昌・こずえ)
HP:http://www.monobox.jp/