父と農業を営む漢那宗貴さん
マンゴーの生産量が日本一を誇る沖縄県。宮古島を筆頭に、県内各地にマンゴー農家は点在しているが、そのひとつが糸満市与座にある親子二代で運営されている「かんな農園」です。一般的なマンゴー農家と一味違ったユニークな取り組みが話題を呼び、テレビ、ラジオ、新聞といった各メディアで紹介されるなど注目を浴びています。
かんな農園ではマンゴーを生産する一方でブログやFacebookを駆使して農園の情報を発信したり、YouTubeに自主制作のCMやマンゴーについて詳しく解説した動画をアップするなど、webを使った最先端の営業活動を行っているのです。その内容がユーモラスで楽しいと注目を集め、マンゴーの販売にも一役買っているといいます。
そういった通常の農家ではあまりみられない取り組みに新鮮さを感じ、今回は、詳しくお話を聞くため、かんな農園の畑におじゃました。対応してくれたのは、前述したPR活動を積極的に行なう息子の漢那宗貴さん。
一つ一つのマンゴーを丁寧に扱う
「畑は、父が退職金を使って作りました。父はそれまで農業の経験はありませんでした。『マンゴーを作ろうと思う』という話を初めて聞いたときは、趣味程度の話だと思っていたのですが、実際に畑に行ってみると500坪の畑があり本格的に始めたことに驚きました」と宗貴さん。
全くの未経験なのに、本格的にマンゴーを作る父の姿は宗貴さんの目に焼き付いたそう。当時宗貴さんはシステムエンジニアだった経験を生かして、役所でIT関連の業務に就いていた。しかし業務をするうちに本当の自分というのを見失ってしまって心身ともに疲れていたという。気持ちが落ちていたそんなときに、一心不乱に畑に向き合う父の姿に宗貴さんは勇気付けられた。
「父がマンゴーを育てている姿を見て、『父の仕事を一緒にやりたい』という気持ちが芽生えました。始めは、『役所の仕事を辞めてまでやることはない』と反対していた父でしたが、説得を重ね最後は認めてくれました。一緒に始めたのは、2014年12月からです」
生き生きとした色合いの採れたてマンゴー
ファンを増やすためにFacebook、LINE、インスタ、ブログを使って営業活動
かんな農園のFacebookページ。オリジナルのLINEスタンプも提供している。
畑作業は、宗貴さんにとってもちろん初めての経験。以前の職場よりも身体的に過酷な内容で負担は大きいはずなのに、曇った顔には本来の明るさが戻り、みるみるうちに元気を取り戻していったという。活力が沸いた宗貴さんは、畑作業と並行して営業活動にも力を入れた。
「かんな農園のマンゴーはボイラーに頼らず、自然の太陽光で栽培しています。減農薬にもこだわり、また収穫時も自然落下ギリギリまで樹の上でしっかり熟させています。こだわりがいっぱい詰まった父の作ったマンゴーをもっとして知ってもらいたいと思い、Facebook、LINE、インスタグラム、ブログを使い情報発信していきました。とにかくファンになって食べてもらうために必死でしたね」
特技を最大源に活かしての営業活動は、功を奏す。日々のマンゴーの育成経過はもちろん、時には失敗を共有したり、可愛いお子さんを登場させたり、ユーモアを盛り込んだ自作のCM動画をアップしたりとFacebookを中心に情報を発信し、ファンと強い関係性を築いていった。
「もともと動画の制作も好きで、結婚式の余興を作ったりして楽しんでいました。みんなが喜んでくれるのが一番うれしいですね」
ロゴ制作にマンゴーを模したキャラクター開発も
自社開発したマンゴー王 愛らしい表情が心を和ます
他にもマンゴーをブランド化するためのアイデアは尽きず、かんな農園のロゴを作ったり、「マンゴー王」というネーミングを付けたキャラクターを開発したりと、次々とアイデアをカタチに転換していった。
「ロゴは、教師である奥さんの教え子で、書道でアートを手掛けているアーティストさんが書いてくれました。いろいろな人の協力があって作ることができました。『こんなのあったら楽しい』というものをカタチにしています。あまり悩んでとどまることはしないで、失敗してもまた次を作ればいいという気持ちで、スピード感も重視して、取り組んでいます」
一目でイメージが残るロゴ
好きなことを組み合わせることで、キツイ農業のイメージを払拭
Facebookで知り合った職人さんがのぼりを制作してくれた
「農業ってきつい、汚いといったイメージがあるかもしれませんが、やりたいと思った興味あることと組み合わせてやれば、そういったマイナス面を感じなくなります。僕は『動画を作るのが好き』『発信するのが好き』『人の前に出るのが好き』。そういった好きなことを農業と掛け合わせてやっていくのも、新しい農家のスタイルとして、受け入れてもらえるのではと考えています。」
Facebookで人脈を構築、これからは直営所やカフェを作るのが目標
与座で工房を構える陶芸家と共にマンゴーを乗せるお皿を考案
Facebookを始めたことも大きな成果があり、今まで接点のなかった人たちとつながりが生まれ、販売に繋がったという。沖縄で開催されるマーケティングをテーマとしたセミナーにも積極的に参加して、新しいアイデアを得る努力も怠らない宗貴さん。
「セミナーで言われたことを参考に、人生プランも立てました。今一番やってみたいことは、マンゴーを販売する直売所を作りたい。そして38歳くらいまでにはマンゴーを使ったスイーツを味わってもらえるカフェを作ってみたいですね。糸満市与座は田舎ですがいいところです。
近くには自分の友達が陶芸をしていてマンゴーを載せるお皿を作ってもらいました。与座には魅力的な人がたくさんいます。もっと観光の人が立ち寄ってもらえるようにアピールをしていきたいと思います」
「父が作ったマンゴーを全国の食卓へ届けたい」という熱い思いが、「生まれ育った街を発展させたい」という新しい夢を生んだ。
箱も自作で制作。高級感を感じるデザインに
お金よりも家族と自由に過ごせる時間を大切に
自然落下ギリギリまで樹の上でしっかりと熟させた採れたてのマンゴーを両手に
「学生時代に就職活動をしていたときは、給料など金銭面を重要視して職を選んでいました。いろいろな経験を通して自分にとっては、お金よりも家族とか自由な時間が大切だと分かった。今は24時間仕事のことを考えていますが、好きなことなので毎日楽しく苦ではありません。これからも仕事とプライベートの区切りをなくして楽しんでいきたいと思います。
今の僕があるのは、公務員を辞めてまでチャレンジさせてくれた妻と子どもたちや、僕を理解してくれて快く迎えてくれた父がいてくれたおかげです。身近な家族や両親に感謝したいと思います。ありきたりかもしれませんが”感謝”が僕の活力です。かんな農園の作物は、感謝の気持ちを込めて、父と共に栽培してお届けしています」
漢那さんが新たに力をいれているアテモヤ
「あ、もうひとつ、『森のアイスクリーム』と謳われる果実・アテモヤの栽培にも今挑戦中です。天使級の甘さでオススメです。『悪魔の実アテモヤ』というキャッチコピーを付けて展開していく予定です。いつかみなさんに食べてもらえるように頑張って育てていきます。」
地元の職人さんとのコラボから新しい果物まで。新しいアイデアが沸き起こる、かんな農園の新しい試みにこれからも目が離せません。
取材協力
かんな農園
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文・写真:草野裕樹(ミクロプレス)
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