沖縄をもっと元気に!
アップテンポなバスケットで優勝を目指す
日本プロバスケットボールリーグ(bjリーグ)に所属する、沖縄県初のプロバスケットボールチーム「琉球ゴールデンキングス」。「沖縄をもっと元気に!」を合言葉に、スピード感のある試合はもちろん、音響照明を駆使した演出など、バスケットやスポーツの枠を超えたキングスのホームゲームが多くのブースターを魅了しています。今季から監督を務める伊佐勉さんに、今シーズンの見どころや新リーグに向けての意気込みを伺いました。
─伊佐監督は、いつ頃からバスケットボールを始めたのですか。
僕は小学生の時は野球少年でした。小学6年の12月に野球を引退して、1月くらいに小学校にミニバスケットができて。友だちと一緒に中学に上がるまでの暇つぶしくらいの軽い気持ちで入ったのがきっかけですね。
1~2カ月間バスケットをして、面白いスポーツだなと思ったんです。僕はバスケットではとても小さい方だったのですが、その身長で大きい相手をあしらうというのが快感で楽しかったですね。それで、そのまま中学でもバスケットをして、高校まで進学しました。
─身長が低いのは不利ともいわれるバスケットボールですが、どのように向き合ってきたのでしょうか?
どうですかねぇ(笑)。自分ではわりと練習をしたつもりです。どんなことでもそうだと思うのですが、好きなことだったら苦にならないですよね。
当時の沖縄はアメリカのチャンネルでNBAが放送されていたので、親父が庭にバスケットリンクを作ってくれて。試合を録画して、好きな選手のプレイをスローモーションで何度も観て、すぐ庭に出て真似をして。翌日、学校でも真似して、でも上手くできなくてへこんで、の繰り返しでしたね。
─やはり小さい頃からスポーツ好きだったのですね。
そうですね。勉強よりはだいぶ好きでしたね(笑)。
─学生時代から選手として活躍してきた伊佐監督ですが、指導者になろうと思った出来事はあったのですか。
大学までバスケットをして、地元に帰ってからは仕事をしながらクラブチームでプレイヤー兼コーチをしていてコーチの楽しさや難しさはそこで学びました。
僕のバスケットは“感覚でやる”ことが多かったので、それを言葉にして選手に伝えることがとても難しくて、どう伝えたら自分の考え通りに選手たちが動いてくれるのか。そこがコーチの楽しさでもあり、難しさでもありました。
そんな時にキングスが誕生し、プレイヤーとしては難しい年齢でもあったので、コーチとしてバスケットに携わりたいと思い、お願いをして入団させてもらいました。
─選手にコーチングするうえで、工夫していることはありますか。
普段からコミュニケーションを多く取るというのは大前提なのですが、数年前までは自分ももっと動けていたので、実際にやって見せていました。ここ最近はそれができないので、とても苦労しています。
たとえば今だと、NBAの選手の映像などを手本にボールをもらう前の顔の位置などを伝えています。
─そういった細かな動き一つも重要なんですね。
そうですね。上手い選手は、ボールを持った時もそうですが、ボールを持っていない時の動きがとても素晴らしい。残りの4人の動き方によって自分がどこにどう動けばいいのかを瞬時に判断できるのが、良い選手だと思います。
ボールは1個しかないので、選手はボールを持っていない時間の方が圧倒的に多い。1個のボールを5人でシェアし、5人のハーモニーというか、場所取りというか、そういったことが上手い選手が揃えばチームは必ず良くなります。
特に練習中は、ボールを持っていなかったり、ひたすら走っている選手を僕はよく褒めます。ボールを持っている選手やシュートを決めた選手は、一番最後に褒めるんです。シュートを打てたのは周りの4人が上手く動いたからで、5人で生み出した得点なんだということを伝えるようにしていますね。
僕はあまり怒らない方で、褒めて伸ばすタイプだと思っていますので、褒める順番には気を遣っているつもりです。もちろん、だらしない時には叱りますし、時には方言を使うこともあります。あまり方言がわからない選手もいますが、僕が方言を使った時は「あっ、ムーさん(伊佐監督のニックネーム)怒っている!」と伝わっているみたいですよ(笑)。
選手たちはそれぞれ良いところも悪いところもあります。そこを踏まえてチームメイトとしてやっているので、長所を伸ばして短所はみんなでカバーし合って、そういったチームで攻めて守って勝利が掴めたらいいなと思っています。
─キングスはとてもアットホームな印象がありますが、選手からは「ムーさん」とニックネームで呼ばれていると伺い、ちょっと驚きました。
そうですか(笑)。僕は小さい頃から、家族にも先生にもみんなから「ムー」って呼ばれていたので、チーム内でも自然にそうなっていったんじゃないかな。練習中も「ムーさん」って呼ぶ選手もいますし、「コーチ」と呼ぶ選手もいます。僕はどちらでも構わないです。
以前は選手と一緒に食事に行くこともよくありましたが、ヘッドコーチに就いてからは機会は減りましたね。僕も選手も少し意識して、自然にラインを引けたかなと思っています。
やっぱり仕事中は監督と選手ですので、なあなあになってしまうとお互いに良くないです。その辺りにも気を配りながら、オンオフをしっかりやっているつもりです。
─創世期からキングスに関わってきて、一番印象に残っている嬉しかったこと、辛かったことは何ですか。
一昨年に優勝したことが一番嬉しかったことで、先シーズン沖縄で負けてしまったことが一番辛い経験でしたね。去年の出来事は必ず今シーズンに活かさなくてはいけない。選手たちは去年のことをしっかり頭に入れて、7月から自主練習を開始しています。
まず1シーズンの間、ケガをしない身体づくりをしようと、トレーニングコーチと一緒に、身体の使い方などを細かく指導してきました。
─ついに新リーグ(※)が誕生しましたね。1部リーグ決定おめでとうございます!
ありがとうございます。
※B.LEAGUE:2016年秋に開幕予定の新リーグ。
─今年が最後のbjリーグになりますが、抱負や意気込みを教えていただけますか。
bjリーグ最後の年ということは、僕はあまり意識していないです。
去年の成績からして、今年は何が何でも東京に行きたいし、行かないといけないという責任もあります。一番大事な1年間になると思いますし、新リーグに向けての準備も踏まえて、今年はキングスがどれだけ成長できるかを念頭に置き、シーズンを戦っていきたいと思っています。
─新リーグが始まると、強豪として企業チームからもマークされるのではないかと思いますが、どのようなチームづくりを考えていますか?
いわゆる企業チームというのは、選手が一回りも二回りも大きい。その選手たちにどうやって対抗するかという対策を日々、考えています。サイズでいったら、やっぱり企業チームの選手が全然上ですから。体当たりされても負けないような身体づくりを心がけ、足も鍛え直して、戦える集団にしていきたいと思います。
また、体力的にも精神的にも、コート中を動き回ることができる運動量を鍛えていきます。試合中「あー、疲れた」という時間が絶対出てきますので、そこを乗り越えてずっと動き続けられるメンタルとフィジカルを鍛え「小さいチームでも戦える!」というところを見てもらいたいですね。
─伊佐ヘッドコーチ自身も小柄なところも、指導にも生かされているのでしょうか。
もともと僕はポイントガードをやっていたので、ポイントガードのゲームの組み立て方などの経験は、今のコーチングに相当生きているのではないかと自分では思っています。
─キングスが他のチームよりも優れているところや自慢できるところは何ですか。
一番はやっぱりファンですね。
沖縄のファンのみなさんは環境的にもバスケットを知っていると思うので、ただジャンプしたら盛り上がるということではなく、一生懸命プレイしている姿に一喜一憂してくれます。だらしないプレイには厳しいので、そういった目を持つファンが一番の自慢です!
一生懸命やった部分もダラダラした部分も、必ず自身に跳ね返ってきますので、選手たちもやりがいを感じていると思っています。
─ファンのみなさんに、特に注目してほしい今シーズンの見どころを教えてください。
沖縄はもともとアップテンポなバスケットが特徴といわれています。キングスはあまり大型の選手がいるチームではないので、コートを動き回り、スピードのあるプレイスタイルが得意です。
去年は特にそこが薄れていたのが、僕自身の反省点のひとつでもあります。今年はどんどんテンポを上げていって、お客さんもヒートアップして、一緒に楽しんでいただけたら嬉しいですね。
─伊佐ヘッドコーチの座右の銘を教えていただけますか。
「凡事徹底」。
当たり前のことを当たり前にするという意味で、中学のとき恩師に言われた言葉です。その時は「そんなの当たり前だろ」と思って、言葉の真意はわからなかったのですが、心に響くようになったのは社会人になって仕事を始めた頃ですかね。
当たり前のことを毎日当たり前にやり続けるのは、結構しんどいです。
─最後に、ファンのみなさんにメッセージをお願いします。
先シーズンは悔しい思いをしましたが、10月から始まるレギュラーシーズンに向けて、選手たちは一から鍛え直してやっていますので、期待していてほしいと思います。これからも変わらぬサポートをよろしくお願いいたします!
【プロフィール】
伊佐 勉(いさ つとむ)
宜野湾市出身。興南高校、専修大学卒。1992年~2007年にクラブチーム「大米クラブ(現・レキオスBascket)」で選手兼監督として活躍し、2005年国民体育大会で成年男子・沖縄県代表アシスタントコーチ、2006年にはヘッドコーチを務める。2007年、琉球ゴールデンキングスのアシスタントコーチに就任。ヘッドコーチに就任した2013年~2014年シーズン、見事2シーズンぶり3度目のbjリーグ優勝を飾り、最優秀コーチにも選ばれた。今季より監督に就任。