2022.10.05

那覇大綱挽に与那原大綱曳……沖縄で「大綱引き」をするのはなぜ? 琉球王国時代から続く伝統行事に迫る!


沖縄で「大綱引き」をするのはなぜ? 琉球王国時代から続く伝統行事に迫る!

「綱引き」といえば、運動会などでおなじみの団体競技!
と、沖縄県外の方ならそう思う方が多いはず。

一方、沖縄で綱引きといえば、琉球王朝時代からの長~い歴史を誇る大切な伝統行事。
“三大大綱引き”と言われる「那覇大綱挽」「与那原大綱曳」「糸満大綱引」をはじめ、現在でも県内各地で大綱引きが行われています。

ところで、沖縄の大綱引き文化はどのように始まったのか、そしてどのような形で行われるのか……皆さんはご存知でしょうか??

今回は、沖縄における大綱引き文化のはじまりや伝統的な綱引きの流れについて、「与那原大綱曳資料館」職員・上原丈二さんと、金城美智江さんに伺いました!

「与那原大綱曳資料館」職員・上原丈二さんと金城美智江さん 写真左:金城美智江さん、写真右:上原丈二さん。与那原大綱曳の伝統衣装でご登場!

沖縄の大綱引き文化のはじまり(与那原大綱曳の場合)

与那原に伝わる昔話によると、今から約450年前の琉球王国。当時は害虫の発生と日照りで稲の不作が続き、人々は飢餓に苦しんだそうです。

困り果てた村人たちは先人の知恵を借りようと、アムト(畑のあぜ)の下に捨てた老人のもとへ。(当時はお年寄りをアムト(畑のあぜ)の下に捨てる風習がありました)

そこで老人は「みんなで鐘や太鼓を打ち鳴らし、大きな声を出しながら綱を引きなさい。そうすれば虫は退治される」という助言を授けました。

そして村人たちが老人の言う通りに綱引きを行ったところ、害虫は全滅し、たくさんの農作物がとれるようになったそうです。これを知った琉球王国の王様・尚永王(しょうえいおう)が綱引きの実施を推奨しました。

金城さん
金城さん
こうして綱引きは、五穀豊穣や無病息災などを祈る神事として、与那原や沖縄各地で行われるようになったと言われていますね。農耕儀礼は綱引きだけではなく、アブシバレー(害虫駆除の儀礼)、5月ウマチー(豊作を祈願する稲の初穂儀礼)、6月ウマチー(稲の収穫儀礼)、アミシの御願(雨乞い祈願)なども行います。

沖縄の伝統的な大綱引きの流れ

沖縄の伝統的な綱引きは、東西に分かれた2本の綱を結合してから引き合うのが特徴。細かな流れは地域によって異なるため、今回は与那原大綱曳を例としてご紹介します。

与那原大綱曳の流れ①支度(したく)が綱に乗る ©与那原町ポータルサイト

①支度(したく)が綱に乗る
歴史上の人物や物語の登場人物に扮した“支度”。東西それぞれの綱に相対する支度が乗ると、綱が担ぎ上げられます。

与那原大綱曳の流れ②東西の綱を寄せ合い、カヌチを結合させる ©与那原町ポータルサイト

②東西の綱を寄せ合い、カヌチを結合させる
掛け声とともに東西に分かれた綱を寄せ合っていき、雌雄の綱の大綱のカヌチ(輪になった頭の部分)を六尺棒で支えながら結合させます。

与那原大綱曳の流れ③カヌチ棒を差し込む ©与那原町ポータルサイト

③カヌチ棒を差し込む
交差したら、カヌチ棒を差し込んで綱を完全に結合させます。結合が完了したら、この後いよいよ綱引きがスタートします!

上原さん
上原さん
綱引きを始めるタイミングには違いがあって、那覇大綱挽では鉦の合図で始まりますが、与那原大綱曳では支度を乗せたまま、カヌチ棒を差し込んだらすぐに大綱を落として綱引きスタートです!この瞬間は迫力満点ですよ~!!

このように、共通の流れはありつつも各地域によって少しずつやり方が異なるのも見どころの1つです。

ここからは「沖縄の三大大綱引き」を中心に、各大綱引きイベントの特徴をご紹介します!

沖縄の三大大綱引き①:那覇大綱挽

那覇大綱挽 ©OCVB

最も有名な沖縄の大綱引きといえば、やはり「那覇大綱挽」です。

会場は那覇の中心地・国道58号線の久茂地交差点。全長約200m・総重量約43トンもの大綱を、15,000人余りの人々が引き合う、沖縄県内でも最大規模の伝統行事となっています!

那覇大綱挽の歴史 (※1)

那覇大綱挽のはじまりは、西暦1450年頃の琉球王朝時代。古文書には「綱挽の儀は第一国家安穏・会場安全の祈祷として挽き切れる由」と記されており、慶賀や歓待などの目的で開催された国家的催事であったと言われています。

都市として次第に発展する那覇において、「なーふぁんちゅー(那覇人)の心意気を発揚する行事」として成立してきた那覇大綱挽。雨乞いや豊作願いのために行う農村地方の綱引きに対し、“交易都市那覇”を象徴する大綱引きとなっています。明治以降は、お祝い綱として幾度も開催されました。

1935年を最後に一度途絶えてしまいますが、沖縄の復帰前年となる1971年、市制50周年記念行事として「10.10那覇空襲の日」に復活しました。

ギネス記録に認定された大綱 (※2)

那覇大綱挽で使われる大綱の実物大モニュメント 那覇大綱挽で使われる大綱の実物大モニュメント ※那覇市牧志「希望ヶ丘公園」に展示されています

那覇大綱挽は、1995年に「世界一のわら綱」としてギネスブックに認定されました。その後1996年、1997年と3度のギネス認定を受けます。

1997年にギネス社編集長が那覇を訪れて確認し、認定された記録は「全長186m、総重量40.22t、直径1m58cm、手綱数236本、引き手15,000人、参加人数275,000人」。その後も綱は“成長”を続けているそうです。

※1~2 参考文献:那覇大綱挽保存会『那覇大綱挽 ギネス認定世界一の大綱』2011年9月

2022年の開催について

新型コロナウイルス感染症の影響により、2020・2021年は中止となった那覇大綱挽。今年は3年ぶりの開催が決定しています!!

今回は感染拡大防止対策のため、「綱を全長160mに短縮」「引き手人数を3,200名に限定(要事前参加登録)」など、規模を縮小しての開催となります。詳しくは那覇市ホームページをご確認ください。

日時:2022年10月9日(日) ※感染状況により開催中止の可能性あり
綱引き会場:国道58号線 久茂地交差点
那覇大綱挽公式サイト:https://www.naha-otsunahiki.org/

会場最寄りの沖縄ファミリーマート

イベント中の軽食や水分補給用のドリンクなど、ぜひ会場最寄りのファミリーマートでお買い求めください!

店舗①:リースビル店
住所:那覇市久茂地1-7-1
店舗情報はこちら

店舗②:那覇久茂地二丁目店
住所:那覇市久茂地2-8-12
店舗情報はこちら

沖縄の三大大綱引き②:与那原大綱曳

与那原大綱曳 ©OCVB

本島南部・与那原町で行われる与那原大綱曳は、“与那原を象徴する伝統文化”として440年余の歴史を誇ります。

もともとは旧暦6月26日、アミシの御願(雨乞い祈願)に行われていましたが、生活環境の変化や観光的要素が強くなった側面から、現在では「旧暦6月26日以降の最初の日曜日」の開催となっています。

与那原大綱曳の特徴

華やかな旗頭、豪華絢爛な衣装の支度を乗せての道ジュネー(行進)、そして支度を乗せたまま、東西の綱がカヌチ棒で結合された瞬間に大綱を地面に叩きつけて綱引きスタート!!

この圧巻の大迫力が、与那原大綱曳の大きな特徴です。

与那原大綱曳の旗頭 大輪の花が咲き誇る、与那原大綱曳の旗頭(©与那原町ポータルサイト)

与那原大綱曳で使われるのは、長さ90m、直径1m、重量5トンもの大綱。綱曳の本番2週間前から各区で綱作りが始まり、老若男女、親子二代三代と、多くの町民が力を合わせて綱を作ります。まさに、与那原町の総力をあげた一大イベント!

当日の大綱曳や事前の綱作りは、与那原町民以外の方もウェルカム。町外の県民はもちろん、県外・海外の観光客が参加することもあるそうです。

2022年の開催について

こちらも、今年は3年ぶりの開催が決まっています!
7月開催予定が延期となり、今年は10月末の実施となりました。沖縄も少しずつ肌寒くなる時期ですが、力強い与那原大綱曳の熱気を感じに足を運んでみては??

開催日:2022年10月30日(日) 
綱引き会場:御殿山青少年広場(島尻郡与那原町与那原712)
与那原大綱曳の開催情報はこちら

会場最寄りの沖縄ファミリーマート

店舗:与那原店
住所:島尻郡与那原町与那原3695
店舗情報はこちら

沖縄の三大大綱引き③:糸満大綱引

糸満大綱引の旗頭

古式伝統を守り、毎年旧暦8月15日に行われる糸満大綱引。
漁業が盛んな糸満市では、豊年満作と大漁祈願などを祈ってこの大綱引きを行います。

糸満大綱引の特徴

長さ180m、使用される藁(わら)は総重量約10トンと、那覇大綱挽に次いで大きな綱が使われます。この大綱が作られるのは、なんと本番当日!!これは糸満大綱引特有の伝統です。

大綱引きの前には1,000人余の糸満市民が参加してパレードを行うなど、市民一丸となって盛大にイベントを盛り上げます。大綱引きは市民でなくとも誰でも参加可能です。

2022年の開催について

今年の糸満大綱引は9月10日(土)に開催予定でしたが、残念ながら新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえて開催中止となりました。

その他:沖縄の大綱引きイベント

「三大大綱引き」のほかにも、数年に1度しか開催されないものや国際色豊かなものまで、各地で個性豊かな大綱引きが数多く開催されています!その一部をご紹介しましょう。

大山区大綱引き(宜野湾市)

沖縄県中部・宜野湾市の大山区で、300余年の伝統を誇る大綱引き。毎年旧暦6月15日(7月頃)に開催されています。こちらの見どころは、綱引き前に行われる「アギエー」という勝負。六尺棒を使って、輪になった綱の頭を限界まで高く揚げてぶつけ合う、大綱引きに負けず劣らずの大迫力を味わえます!

当間大綱引き(中城村)

130年の歴史がある当間大綱引きでは、「マールジナ」と呼ばれる大綱を総勢200人で引き合います。開催されるのは、なんと6年に1度「卯年」と「酉年」の年のみ!前回は2017年に開催されたので、慣習通りでは来年2023年に行われる予定です。

国際大綱引き(沖縄市)

沖縄市のお祭り「沖縄国際カーニバル」のメインイベントとして行われる、国際色豊かな大綱引きです。コザ・ゲート通りを交通規制して約2,000人が綱を引き合い、市内には米軍関係者や多くの外国人が居住していることから「日米対抗戦」も行われます!

まとめ

那覇大綱挽 ©OCVB

他では類を見ないほどの大きな綱を大勢の群衆が引き合う、沖縄の大綱引き。

その迫力もさることながら、「豊作や無病息災などのさまざまな願いが込められた伝統行事」という背景を知ることで、綱引きの見学や参加を一層深く楽しめるでしょう。

このご時世によりイベントの中止が相次ぎましたが、今年満を持して開催される「那覇大綱挽」「与那原大綱曳」をはじめ、これからまた各所で熱気あふれる大綱引きを楽しめるようになるはず。

沖縄の皆さんはもちろん、県外から観光に訪れる皆さんも、ぜひ想いのこもった大綱を引きに足を運んでみてはいかがでしょうか?

与那原大綱曳資料館

取材協力:与那原大綱曳資料館
2022年4月1日、与那原町役場の東側に移転オープン。与那原大綱曳の歴史や文化、衣装や小道具の見本、そして大綱や旗頭のレプリカなどのさまざまな展示を楽しめるほか、綱作りや旗頭などの体験コーナーも充実しています!(入館料・体験コーナーは全て無料です)
公式サイトはこちら
住所:沖縄県島尻郡与那原町字上与那原16-2