沖縄の伝統芸能・エイサー。
旧盆に先祖をお見送りする念仏踊りでありながら、その演舞は観る者を魅了し、現在では沖縄県内だけでなく、全国各地や海外にも演舞チームやファンが存在するほどのムーブメントとなっています。
中でも『沖縄全島エイサーまつり』は沖縄の一大イベント!
2023年は「9月8日(金)~9月10日(日)」で開催予定となり、沖縄県内でもすでに期待が高まっています。
そんなエイサーについて詳しく学ぶべく、今回はこちらにやってきました!
“エイサーのまち”こと沖縄市にある、エイサーの発信拠点施設・エイサー会館。
こちらでエイサーについて教えてくださるのは、沖縄市観光物産振興協会・事務局長の金城 諭(さとし)さんです。
かつてエイサーで地謡(じうてー・三線を弾いて歌う役)をされていた金城さん
今回はエイサー会館を金城さんとともに回りながら、エイサーに関する知識を徹底的に教えていただきます!!
そもそも「エイサー」とは?歴史や由来について
エイサーの起源
エイサーの起源については諸説あるそうですが、一説では「袋中上人(たいちゅうしょうにん)」という僧侶が琉球に伝えた“念仏踊り”がエイサーに発展したと言われています。
1603年。袋中上人が現在の福島県いわき市から船で中国に渡る際、琉球に数年滞在した袋中上人は、仏典を踊りながら唱える”念仏踊り”を伝え、沖縄独自の仏典踊りの形態であるエイサーへと発展したという説があるそうです。
- 金城さん
袋中上人の故郷・福島県いわき市では「じゃんがら念仏踊り」という伝統の踊りがあるんですが、これも首から太鼓を下げて叩きながら踊るんです。袋中上人が伝えた念仏踊りが、沖縄ではエイサーに、いわき市ではじゃんがらになった、という説もあるんですよ。エイサーとじゃんがらは念仏踊りのいとこ同士みたいですね。
エイサー会館には、エイサーの歴史が壁一面に記されたコーナーが!
“エイサー”という名前の語源
この念仏踊りに「エイサー」という名前がついた理由も、実は起源と同様はっきりとは分からないそうですが、代表的な説がこちらの2つです。
①琉球の古い歌謡集『おもろさうし』に出てくる「えさおもろ」という言葉
②「エイサー エイサー ヒヤルガエイサー」というはやし言葉から取ったもの
エイサーの広まりと「全島エイサーコンクール」の始まり
明治時代中頃には、念仏エイサーを歌いながら門付をする“念仏エイサー”が沖縄全島に広がりました。さらに毛遊び(もうあしび・男女が夜な夜な原っぱに集まってお酒を飲む場)で流行りの民謡をエイサーに導入して振り付けを加えるなど、エイサーはどんどん芸能的な性格を強めていきます。
また、明治30年代以降には全国の物産品評会や展示会にも余興として出演し、芸能としてのエイサーが全国的なものになりました。
その後、戦争のためエイサーは一時中断を余儀なくされます。
そして戦後。米国政府が出した「オフリミッツ(米軍人・軍属・家族が民間地域を出入りすることを禁ずる規制)」のため、基地依存の商業都市だったコザ市は経済的大ダメージを受けてしまいます。
市民が希望を失い、暗くなってしまったコザ市。そんな中、このまちをエイサーの力で盛り上げよう!!と1956年に始まったのが、現在の全島エイサーまつりの前身となる「全島エイサーコンクール」でした。第1回大会には沖縄全島から選抜された9団体が出場し、なんと3万人もの観衆を集めたそうです。
エイサー会館に展示されている、全島エイサーコンクール(1969年開催)の写真
当時は「コンクール」ということで、審査や賞があったそうです。そのため、各青年会で隊列や技、衣装などに工夫を凝らすようになり、徐々にパフォーマンスとしての“魅せるエイサー”が発展していきました。大太鼓や締太鼓が増加したのもエイサーコンクールの影響です。
- 金城さん
ただ、チーム毎ではもちろん地域によってエイサーの形は全然違うのに、コンクールでは昔ながらの素朴なエイサーより派手な演舞のほうが評価されやすい傾向にありました。演舞に優劣をつけることへの議論が巻き起こり、1977年にコンクールではない「沖縄全島エイサーまつり」へと形を変えたんです。
エイサーの目的と道じゅねー
芸能として発展し、イベントでも大変な盛り上がりをみせるエイサー。しかし、エイサーは元はと言えば「先祖供養」のための踊りです。
沖縄では毎年旧盆の時期に、各地の青年会がエイサーを踊りながら地域を練り歩く「道じゅねー」が行われます。道じゅねーは旧盆3日間の最終日(ウークイ)にご先祖のお見送りとして行うものと言われていますが、近年では旧盆期間中であれば日を問わず実施される地域も増えているそう。
- 金城さん
旧盆の翌週に開催される全島エイサーまつりは、位置づけで言えば「エキシビション」みたいなものですね。もちろん、エイサーまつりを目標にする団体もあります。
沖縄県内各地の青年会旗頭シリーズ
地域やチームによって違う!?エイサーの役割や楽器、楽曲について
エイサーの演者の種類
太鼓を叩く人や手踊りをする人など、エイサーには様々な演者が登場します。
この演者の種類は地域によって違いがあるそうで、今回は沖縄市のスタンダード「締太鼓エイサー」における演者について教えてもらいました!
地方・地謡(じかた・じうてー)
エイサーに絶対不可欠な唄い手。三線を弾き鳴らし、民謡やエイサー節を唄い上げて踊り手のテンポをリードします。青年会では地方に憧れる踊り手も少なくありません。
旗頭
隊列の先頭に立って、青年会の顔である「旗」を掲げる役。重い旗を曲のリズムに合わせて上下に振ります。
大太鼓
全体の音がずれないようにリードする、エイサーの音頭取りのようなポジション。重量のある大太鼓を抱えながら、飛ぶ・回るなどダイナミックな動きをします。
締太鼓
“演舞の華”とも言える締太鼓。全体が一糸乱れぬ動きで大胆に動きながら締太鼓を翻す、その演技が揃う光景は圧巻です!!
イキガモーイ(男手踊り)
エイサーの踊りの基本。男性はまず手踊りから始め、リズムや動きを掴めないと太鼓を任されません……!青年会のなかには空手の型を取り入れる団体もあります。
イナグモーイ(女手踊り)
力強い男踊りに対し、手先の緩やかな動きとしなやかな踊りで演舞に華を添える役です。絣(かすり)の着物にタスキがけ、島ぞうりを履き、団体によっては豆しぼりやサージを頭に巻くことも。
サナジャー
指笛を吹いたり観客を盛り上げたりと、道化的な役割をしながら隊列を整える役。白く奇抜なメイクや頭で、滑稽な踊りをする姿が目を引きます。チョンダラー、サンラー、チョーギナーなどと呼ばれる場合もあります。
- 金城さん
お隣のうるま市では締太鼓ではなくパーランクーを使っている団体もあったり、北部のほうではそもそも手踊りのみで太鼓自体がなかったり……エイサーと言っても地域によってかなり違いがあるんですよ!
ピエロのようなメイクが印象的なサナジャー
エイサーで使用される楽器
三線
地方・地謡が弾き鳴らす、沖縄音楽を代表する弦楽器。14~15世紀に中国南部から沖縄に伝わったとされ、当初は琉球古典音楽の伴奏楽器として使用されていました。
大太鼓
大型の両面鋲打ち太鼓で、肩から帯で下げて胴を抱えながらバチで打ちます。戦後のコンクールを通じて増加し、現在では創作エイサーの団体にもよく使用されています。
締太鼓
両面枠の型締太鼓。左手で同紐の部分を握り、右手のバチで打ち鳴らします。沖縄市はこれを用いた「締太鼓エイサー」が盛んです。
鉦打ち(ケンケナー)
締太鼓よりもひと回りほど小さい、小型の片面鋲打ち太鼓。もともとは与勝半島周辺のエイサーでよく用いられていましたが、1960年代以降は沖縄本島の中南部で“パーランクーエイサー”が普及していきました。
三線
キーンと音のなる鉦で、節取りとして使われます。かつての念仏踊りにおいて鉦を叩きながら念仏を踊る習俗が、沖縄のエイサーにも影響したとされています。
- 金城さん
戦争時に、落ちていた砲弾の薬きょうをケンケナーとして使用していた例もあります。現在、沖縄市でケンケナーを使う青年会はごく一部ですね。
エイサーの衣装
一般的にエイサーといえば、このような衣装を想像する方が多いはず。こちらは厳密には「沖縄市の締太鼓エイサー」での基本的な衣装となるそうで、この形をベースに各青年団が独自デザインの衣装を作っています。
もともとエイサーのスタンダードはこちらの浴衣のような衣装です。沖縄市の衣装が先ほどの形に変わっていったきかっけは「全島エイサーコンクール」でした。
コンクールでは各青年が演舞を競い合うのですが、全チーム同じ衣装だとなかなか差がつきません。そこで各団体が「こうすると目立つんじゃないか」等と衣装を工夫するようになったと言われています。
エイサーで使用される楽曲
エイサーの楽曲については、本来は「仲順流り(ちゅんじゅんながり)」という曲の中に「七月七夕中の十日」という旧盆の歌詞があり、それが旧盆の歌だと言われています。
その後、コンクールや様々な時代の変遷の中で、曲が増えたりしていったそうです。また、同じ楽曲でも歌詞を変えて使用される場合もあります。
- 金城さん
これは創作エイサーチームの話ですが、マイケル・ジャクソンの曲で演舞していた時は一番ビックリしましたね(笑)。
沖縄全島エイサーまつり2023について
旧盆明けのビッグイベント・沖縄全島エイサーまつり。
2023年の開催日時・場所は以下のとおりです。
第68回沖縄全島エイサーまつり
<初日(道じゅねー)>
日時:2023年9月8日(金) 18:30~21時(予定)
会場:沖縄市胡屋十字路周辺
<中日(第45回沖縄市青年まつり>
日時:2023年9月9日(土) 15時~21時
会場:沖縄市コザ運動公園陸上競技場
<最終日(本祭)>
日時:2023年9月10日(日) 15時~21時
会場:沖縄市コザ運動公園陸上競技場
まとめ
夏の風物詩として、そして沖縄が誇る伝統芸能として、県内外で親しまれてきたエイサー。その起源が約400年も前に遡ること、念仏踊りから変化・発展していった経緯、演者や楽器の種類、そして今でも地域によって踊りの違いがあることなど、皆さんはご存知だったでしょうか??
近い将来、また道じゅねーや全島エイサーの場で心躍らせる日がきっとくるはず。その際には、このような背景を知っておくことで、エイサーを観ること・踊ることを一層深く楽しめることかと思います。
今回取材にご協力いただいたエイサー会館では、展示はもちろんエイサー体験なども実施されています。エイサーのことをもっと知りたい、実際に踊ってみたい!という方はぜひ足を運んでみてくださいね。
取材協力・エイサー演舞写真提供:一般社団法人 沖縄市物産観光協会