2017.03.17

クラフトマン・ジャーニー 第1回


みなこみなこ

こんにちは、絵を描いたり服を作ったりしています、みなこです。

このコラムでは、ものづくりに関わる人にお会いしてお仕事のお話を聞いてご紹介していく予定です。もともと、人のお仕事のお話を聞くのが大好きなので楽しみでワクワクしています。

わたしが感じた胸の高鳴りを、できるだけ生々しくみなさまにお届けしようと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

石を彫る人 若山大地

「ねえ若山、わたし沖縄ファミリーマートのホームページでものづくりに携わる人にお話を聞く連載を始めるのだけど、第1回目の取材、若山のところに行っていい?」
この連載の第1回目。誰にお願いしようか迷ったわたしが白羽の矢を立てたのは、もう10年以上も前からつきあいがあり、一緒に何年か働いたこともある、まっすぐで優しく沖縄を愛してやまない石獅子職人、若山大地さんでした。

えええ!すごいな、俺なんかでいいの?ええ!いや、すごいなあ!
緊張と混乱と興奮でわたしよりずっとごちゃまぜになってしまったような若山さん。じゃあよろしくね、と電話を切ったあと、やっぱりお願いしてよかったとひしひしと感じました。
若山さんと話しているといつも思ってもいなかった反応があって、だけど彼は大真面目で、なんだかもうそれがおもしろすぎて笑ってしまって、居心地が良くて。そんな若山さんの分身のような石獅子たちについて、今回はお話を聞いてきました。

若山大地

『中三の進路調査票に、第一志望が辺土名高校、第二志望が沖縄水産って書いたんだよね。』

愛知県出身で、沖縄の北部に位置する大宜味村に住んでいるおばあちゃんを毎年夏になると訪ねていたという若山さんの沖縄愛は、わたしの知っている人の中でも特に深く、沖縄で育っていないだけに濁りのないものだと感じます。

当然のことながら、愛知県に住みつつ辺土名高校に通えるわけがなく、地元の普通高校に通い始めました。高校の進路調査票には第一志望が全日空、第二志望が日本航空、と書いたそうです。旅客機が好きな若山さんは、『それも、沖縄に来るための手段が飛行機だったからってのが大きいかもしれないんだけどね。』と言います。とにかく、どんな手段をとってでもなるだけ沖縄の近くに行きたい、旅客機に関係のある仕事に就けば、いつでも沖縄に飛んでこれる、というふうな思いがあったのでしょうか。

そんな頃、若山さんは沖縄に芸術大学があることを知りました。もともと好きだった美術と、愛してやまない沖縄をひとつにした大学に、なんて都合がいいと進学を決めました。彫刻科に進むとすぐに石という素材を選び、そしていま現在まで彫り続けています。

道具たち

「なぜ石を選んだのか?」という質問に若山さんは、『沖縄といえば、石だから。』と、当然のように答えます。そういえば、沖縄では見ないように歩くのが難しいほどに、どこにでも石垣を見ることができます。ですが、それを意識している人がそう多くいるようには思えません。なぜなら、特別に注目されるような造形ではなく、あまりにもあたりまえに風景に溶け込んでしまっているからです。

素材との出会いは、ものづくりを重ねていく上で極めて重要な要素です。そこには愛があり、それを超える格闘があり、理解しようとして永遠に共に歩んでいく忍耐がある、例えるなら生きていく上で運命の人に出会えるかどうか、と同じくらい大切なものです。沖縄に住み、彫刻を続けることは石を彫ること、と迷いのない若山さん。「他の表現法に興味はない?」との質問には『うーん、まあ、面白そうかなあとは思うけど』と今まで考えてもみなかったという表情で答えます。

石獅子
(若山さんの作品たち)

ご自身が気付いているかどうかは定かではありませんが、そこには他人にとっては理解できなかったり見落としてしまうような一本の道がすっと通っていて、今の仕事=石獅子制作に導いてくれたのだと感じます。

上間の石獅子との出会い

最後に、若山さんがこの仕事を始めるきっかけとなった「上間の石獅子」をご紹介します。生きていく上で石という素材に寄り添うことを決めて、城壁の石垣を積む仕事などをしていた若山さんが、足元にこんな素晴らしいものがあった、とときめいたのが上間の石獅子だったそうです。

『石獅子』は、琉球王朝時代から沖縄の村々の入り口に作られ、守り神として親しまれてきました。琉球石灰岩という、気泡が多くこまかな細工には不向きな石でつくられており、何気なく通ると見落としてしまうようなものも多いです。上間の石獅子との出会いをきっかけに石獅子制作を始めた若山さんは、沖縄全土に点在する石獅子を訪ね、石獅子に関する情報をまとめた”沖縄裏観光 石獅子探訪編”、”石獅子探訪〜糸満市・豊見城市〜編”の2冊の小冊子を奥さまの協力を得て執筆されています。

石獅子
(上間の石獅子と小冊子)

『内地では気にとめないものでも、沖縄にあると輝いて見えるでしょ。』

若山さんが愛おしそうに語る「沖縄」というもの。それはまさに若山さんの今の仕事を表しているように感じます。今まで光が当たっていなかったあたりまえにあるもの、それが若山さんに語らせると輝いて見えて来る。自分の近くにこんなにおもしろいものがあったなんて、と感心する。若山さんの石獅子作りという仕事はすなわち、石という何気なく足元にあるものに光を当てていく作業なのかもしれません。

  • 若山大地
  • 若山大地(わかやま だいち)
    1976年沖縄県生まれ。愛知で育つ。石工、石獅子職人。沖縄の石獅子を2011年、沖縄県那覇市で自らの石彫作品を制作販売する工房、「スタジオde-jin」をたちあげる。現在、首里に工房とギャラリーを移転準備中。 2017年6月8日(木)から14日(水)、阪急うめだ本店9階催場『沖縄展』に出店予定。10日(土)、11日(日)のみ作家在廊。

スタジオde-jin
沖縄県那覇市首里汀良町1-2 楊姓門中アパート1階
(移転作業中のため、2017年4月中旬以降にお問い合わせの上お訪ねください。)
tel.098-887-7466
http://www.de-jin.com/


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みなこ

- minako

画家、アーティスト、2児の母。
2015年6月から7月にかけての約1か月間、フランス・スペインのキリスト教の巡礼路800kmを完歩。『サンティアゴ・デ・コンポステーラ』までの道中の記録を書籍にまとめ、講演等を行う。
[ Instagram ] https://www.instagram.com/minakolope/