本部町の瀬底島にフランス菓子店がオープン、というニュースを知ったのは、2016年の秋。那覇や北谷など、人の多い場所であれば特に珍しくもないことですが「瀬底島」と聞いて、俄然興味を持ちました。
なぜ瀬底島?どんな人がオープンしたの?いろいろと疑問は沸き起こりますが、確かなことは、行ってみないとわからない!というわけで、瀬底島のフランス菓子店「りんごカフェ」を取材しました。
本部町の瀬底島は、瀬底大橋で本部半島とつながる離島。近年は海の見えるカフェや宿泊施設などが多くオープンし、夏場には観光客でにぎわっているようですが、「りんごカフェ」はどうやら海の見える場所にはない模様。ということは、観光客を見込んでのオープンではない…?
なぜ、瀬底島に建てたのか…?そんなことを考えていると、道の脇にさっそく看板が見えてきました。
看板の通りに曲がった先にあるのは、緑深い集落。こんなところに、本当にフランス菓子店があるのでしょうか?
しばらく進むと、フランスの国旗がはためく古民家を発見!外観にはマカロンの絵。ここがりんごカフェに間違いないようです。
瀬底島にお店をオープンした理由は…「特になし」?
りんごカフェを切り盛りするのは、パティシエのドロメール・ヴァンソンさんと奥様の慶子さんのお二人。2016年の3月まで、宮城県塩釜市で長年お菓子屋さんを営んでいました。地元では人気のあったお店だったにもかかわらずなぜ沖縄に移転されたのかを伺うと、慶子さんいわく「たまたま。特別な理由はない」と驚きの答えが!(笑)
宮古島に住む慶子さんの友人がお店を開くために見つけたのが、この瀬底島の物件だったそう。しかしその友人は結局違う場所にお店を出し、この物件だけがぽっかりと残されてしまいました。慶子さんは元々、一年に1~2回は沖縄に遊びに来るほどの沖縄好き。これはいいチャンス!と、瀬底島にお店を構えることをすぐに決断したといいます。
「宮城のお店がうまくいっていたのにいきなり瀬底島に来ることになって、旦那はさすがに渋っていました(笑)」と慶子さん。しかし、こうと決めたら必ず行動に移す慶子さんの性格を、熟知するドロメールさん。結局家族で瀬底島に移住し、お店をオープンしたのです。
おしゃれな古民家カフェには、もともとは豚が住んでいた?
りんごカフェは、古民家をヴァンソンさん一家が自分たちでリフォームしてできたお店。
手作りの温もり溢れるインテリアがとてもおしゃれ。あちこちにリンゴをモチーフにしたオブジェが飾られ、ハンモックまで吊るされています。
しかし、通常の古民家に比べ、ちょっと天井が低いような…。不思議に思って伺うと、「この建物は、もともと豚を飼っていた小屋だったんですよ」と驚きの答えが!
これはエサ入れだったのでしょうか、確かに豚小屋だった名残が随所にあります。時代を経て、このような素敵なカフェに生まれ変わるとは、昔ここで豚を飼っていた人は想像したでしょうか?ヴァンソンさんご夫婦のセンスに脱帽です。
沖縄の食材を取り入れた本格フランス菓子
ヴァンソンさんはパリにあるマカロンの有名店 『ラデュレ』 や、パンで有名な 『グルニエ アパン』 などで修業した経歴の持ち主で、りんごカフェでは本場の味を楽しむことができます。
ここの名物はマカロン。約20種類ほどあり、島バナナ、泡盛、さんぴん茶など、多くの沖縄の食材が使われています。マンゴーやシークヮーサー、パッションフルーツなど、その時期に旬のフルーツを使うことも多く、フランス菓子でありながら沖縄ならではのマカロンが食べられます。どのマカロンもそれぞれの食材が生きていて、とても風味豊か。彩りも美しいので、プレゼントにも喜ばれそうです。※ちなみにネットショップでも販売していますよ。
こちらは国産蒸し栗とカシスのタルト。栗のほっこりとした甘さとカシスの酸味、上のパリットしたキャラメルのほろ苦さが混ざり合い、複雑な美味しさが口に広がる逸品。タルトに使われるフルーツは季節によって変わるので、その時々で異なる味が楽しめます。
他にもさまざまな焼き菓子やケーキがそろい、イートインはもちろん、テイクアウトもOK。瀬底島がある本部町にはファミマが2店舗あるので、ファミカフェもテイクアウトして職場や自宅で一緒に味わえば、少しぜいたくな3時のお茶になりそう!
「沖縄にはキンカンやシークァーサーなどの柑橘類を始め、香りが豊かなフルーツがとても豊富。ただし、その香りや風味が火を通すと消えてしまうことも多いんです。だから乾燥させたりして、その風味を生かせる調理法を研究中です」と慶子さん。手間がかかるので大量生産はできないけど、だからこそおいしいお菓子が作られるのだと感じます。
りんごカフェにスイーツと癒しを求めて
取材日はオフシーズン。そして平日にもかかわらず、お客さんの足が途絶えることがありませんでした。りんごカフェのスイーツを求めて、北部だけでなく県内のさまざまな場所からお客さんが訪れているとのこと。観光雑誌などたくさんのメディアでも紹介されているそうでその人気ぶりがみてとれます。
そして多くのお客さんは、お菓子を買うことはもちろん、ヴァンソンさん夫婦との会話を楽しんでいるのが伺えます。「私、とってもおしゃべりなんです」と笑う慶子さん。お客さんの中には人生相談を始める人もいるんだとか。
「たぶん、ここに”アク”を出しに来るんでしょうね」と慶子さんは言います。確かに、気さくな慶子さんを目の前にすると、この自然豊かな瀬底島のロケーション効果も相まって、何か打ち明けたくなる気持ちがよくわかります。
この小さなお店には、お菓子、人、自然全てが混ざり合って、人を癒す力が備わっているのかもしれません。不思議な魅力を持つ瀬底島のお菓子屋さんです。
取材協力:りんごカフェ
[住所]沖縄県本部町瀬底279(MAP)
[電話]0980-47-6377
[営業時間]9:00~18:00
[定休日]月曜
ライター:ワードワークス沖縄 仲濱淳
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