那覇の映画館「桜坂劇場」で、何やら気になる映画のお祭りが開催されています。その名も「ガチバーン映画祭」。
2016年2月から毎月1日だけ開催されているこの映画のお祭り。上映された映画のタイトルを見ると怪しげなものばかり。多くの個性的なカルト映画を上映している桜坂劇場でも、このラインナップは明らかに異彩を放っています。
しかし、異質なものに心惹かれてしまうのが人間の常というもの。「ガチバーン映画祭って一体何?」「なんでこんな変な映画ばかり上映しているの?」とにかく気になって仕方ありません。
「ガチバーン映画祭」とはなんぞや?この映画祭の正体と魅力に迫ります。
「ガチバーン映画祭」には仕掛け人が語る、その企画意図とは?
「ガチバーン映画祭」を企画したのは桜坂劇場ではなく、落合寿和さんというたった一人の男性でした。落合さんは30年近いキャリアを持つベテラン翻訳家。これまで数えきれないぐらいの映画の翻訳を手掛けたり、某テレビ番組の映画コーナー翻訳を放送開始時から担当したりしています。数年前に沖縄に移住したという落合さんですが、なぜ、プロの翻訳家がガチバーン映画祭を企画したのでしょうか?
ーガチバーン映画祭を始めた理由はなんですか?
落合:今の時代、映画はテレビでもスマホで簡単に見られます。「映画は物語が追えれば十分」という認識の人は、別に映画を映画館で見る必要はありませんよね。テレビやスマホで事足りる。でも、そんな人にこそぜひ映画館で映画を見て欲しいんです。なぜかというと、映画館でしかできないことが「非日常を味わう」という体験なんです。
例えば花火大会。花火って、テレビ中継で見れば一応花火の様子はわかるし、美しさや大きさもわかりますが、あの音の迫力や臨場感は、実際に花火大会に行かないとわからないですよね。映画館で見る映画と、テレビで見る映画も、それぐらい差があるんです。
映画館でもテレビでも、「映画の物語をたどれる媒体」という意味では同じかもしれませんが、映画館での非日常感は一度体験しないとわからない。その違いを知っていた方が絶対楽しいし、例えスマホで映画を見ても「これ映画館で見たかったなあ」と感じることができる。映画館が少なくなっている今だからこそ、そういう「違いの分かる人」を増やしていきたいし、必要だと感じています。
ー「ガチバーン映画祭」という名前が非常にユニークですが…
落合:「ガチで見たら脳みそがバーンとなる作品」という意味です。フランス語っぽいでしょ(笑)。
これは桜坂劇場の担当者の下地さんという方が名付けてくれました。この映画祭を始めるにあたって、「ジャンル映画」という大きなくくりで上映しようと思っていたんですけど、その言葉が漠然としているからと下地さんがアイデアをくれました。当時、某SF映画の「フォースの覚醒」というのが流行っていたので「覚醒」という言葉を入れたかったんですけど…。一応、パンフレットには入れました(笑)
当初は一回こっきり2本立ての企画を上映を桜坂劇場に持ち込んだんです。そうしたらすんなり承諾をもらえて。その時に、念のためほかの12本の作品ラインナップを用意していて、機会あればそのリストを見せようと思っていたんです。そして見せてみたら、これまたすんなりOKに。最終的に24本の上映があっという間に決まりました(笑)。
最初はあまりお客さんの入りがよくなかったので、何日か続けて上映してみたこともあったんですけど、動員が分散しちゃう。そこで、企画ごとにキャッチーなキーワードを付けてみたところ、徐々にお客さんが増えてきました。
ー「4Dマン怪奇!壁抜け男」など珍しい作品が上映されていますが、どのように映画をセレクトしているんですか?
落合:ほとんどが自分で翻訳した映画なんです。映画製作にかかわっている人間として、やっぱりその作品を見て欲しくてこのラインナップになりました。特にこういうマニアックな作品なんで、自分が引っ張り出してあげないとなかなか見てもらえない(笑)。
ガチバーン映画祭の特徴その①~チラシがすごい!
ガチバーン映画祭の特徴として挙げられるものに、一度見たら忘れられない濃いデザインのチラシがあります。このチラシはなんと、全てオリジナル。月に一度、数時間のためだけにに必ずチラシを作っているそうですが、これには落合さんのチラシに対する深い思い入れが関係していました。
ーこのチラシ、全部落合さんが準備しているんですか?
落合:もちろんそうです。実際の制作はデザイナーさんにお願いしていますけど、手配は全て自分でやっています。
チラシって、映画の扉を開ける「鍵」になると思うんです。チラシがあることで、その映画を気に留めてくれる人が出てくれる。レンタル屋の片隅でホコリをかぶっているだけでは誰も見てくれません。
映画は確かに上映している瞬間しか存在していないけど、チラシがあれば映画が終わった後でも映画のことを語れるし、古い映画をいつでもリフレッシュさせることができるんです。だからたった一回の上映のために、2種類もチラシを準備しちゃったりするんです(笑)。
ーチラシ配りも落合さんがやっているんですか?
落合:そうです!今まで生きてきた中でこのチラシ配りは最も楽しいことの一つです。どぶ板選挙のようなもので(笑)。この一年で顔なじみになった人が100人はいますし、それだけでもとても楽しいんです。
※こちらのページからとても個性的なチラシの一覧をご覧になれます。
ガチバーン映画祭の特徴その②~イベントがすごい!
ガチバーン映画祭は、実はイベントも面白い!そしてかなり凝ったプログラムになっているのが特徴。ここにも、落合さんのこだわりが詰まっています。
ー映画に携わった方がイベントに出演されているそうですね?
落合:そうなんです。例えば「我ら食人至上主義」という企画で上映した「食人族」という映画は、出演者がビデオコメントを寄せてくれています。この映画は1983年に上映されたもので、当時「E.T.」に次ぐヒットになった作品でなんですが、この映画がブルーレイ化される際の特典映像を翻訳したことをきっかけに出演者と知り合って、出演交渉もできたんです。
この写真は「エクスタミネーター」という作品の監督で、上映の時にスカイプで出演してくれました。その時アメリカは早朝。そんな時間にもかかわらず監督は快く応じてくれたんですよ。
ーすごいですね!
落合:そう、結構色々と面白い取り組みを行っているんですよ!最近はなかなかその仕込みの時間が取れないし、予算もないので自分で登壇してゲストになっちゃっていますが(笑)
ガチバーン映画祭は、最高の観光キーワードになり得る!
落合さんにはもう一つ、沖縄でガチバーン映画祭を開催する大きな意義があると言います。その真意を聞いてみました。
落合:沖縄は観光立県なので、人を呼び寄せる強いキーワードがあることが重要ですよね。きれいな海や花は確かに大きなキーワードですが、日本が島国であり四季があることを考えると、全国それは一律のキーワードとなってしまいます。沖縄だけ突出した、他のキーワードが必要なんです。
「ガチバーン映画祭」は、その新たなキーワードになり得ると思っているんです。映画ファンにとっては本気でうらやましいラインナップが沖縄の桜坂劇場でしか上映していない。これだけで十分「わったー自慢」になるんです。この映画祭は、沖縄に興味を持つキッカケに必ずなると確信しています。一人でもこの映画祭を見るために沖縄に来てくれる人がいたら、嬉しいことこの上ないですね。
ガチバーン映画祭への情熱は、映画への限りない愛情から
ー本職がありながら、なぜここまで映画祭に情熱を注げるのでしょう?
落合:情熱というほどのものではありませんよ。商売にしようとは考えていませんし、あくまで限りなく本業に近い趣味です。でも、映画でゴハンを食べている身としては、やっぱり映画を見せたい。映画は見られなければ映画ではありません。
たくさんの人に見て欲しいし、「みんな楽しもう!」とけしかけたくて仕方ないんです。映画祭は面倒なこともたくさんありますが、やると楽しくて仕方ないんです。
落合さんへの取材を終えて
さまざまな媒体で映画館に行かずとも映画が見られる今の時代。そんな中だからこそ、「映画館で映画を見てもらう」ことにこだわる落合さん。
「ガチバーン映画祭」は、一人の映画に携わる男性の映画に対する強い思いから生まれた、至極真面目な映画祭だったんです。
ガチバーン映画祭は今のところ日中の上映だけですが、今後はちょっと大人向けの作品を上映する夜間の「ナイトガチバーン」やマカロニウェスタン作品を上映する計画もあるとのこと。さらに、2017年2月26日(日)の映画祭にはトークゲストとして人気若手声優の仲村宗悟さんと帆世雄一さんが登壇予定。
ファミリーマートのチケット販売サービス「Famiポート」でもチケットを購入できます。たまには映画館で、脳みそが「ガチ」で「バーン」となる体験をしてみてはいかがでしょうか?
取材協力:桜坂劇場
[TEL]098-860-9555(劇場窓口)
[住所]沖縄県那覇市牧志3-6-10(MAP)
ライター:ワードワークス沖縄 仲濱淳
HP: http://okinawa-wordworks.jimdo.com/