近年、「ご当地おでん」なる言葉も生まれ、にわかに注目を浴びている“沖縄おでん”。
知っているようで、説明はしづらい“沖縄おでん”の謎に切り込みたく、沖縄で食の話はこの人に聞け!と、オキナワふうどライターとして名を馳せる嘉手川学さんにお話を伺いました。
“沖縄おでん”のアレコレ。教えて嘉手川さ~ん!
―沖縄に、おでん。一体いつからあるのでしょうか!?
ボクがおでんを初めて食べたのは、進学で上京した1976年頃だったかな。先輩に「一杯行こう」と誘われて板橋区にある屋台のおでん屋に行ったのが最初でね。それまで、おでんのカタチは「漫画でチビ太が手に持っているもの」という認識だったので、おでん鍋や具を見た時は驚いたなぁ。それに屋台だったから安いの!庶民に親しまれている味なんだなぁと感じたのを覚えています。
当時の沖縄では家でおでんを作って食べている風習はなかったんじゃないかな。でも沖縄に戻ってきて出版社に勤め出した頃、取材で駆け回ったり、飲みに行きだしたりして初めて沖縄に「飲み屋さんとしてのおでん屋さんがあること」を知ってね。飲み仲間のシージャカタ(先輩たち)からの話によると、復帰直後にはお店が出店し始めているみたいだよ。
―飲み屋おでんが“沖縄おでん”の発祥なんでしょうか?
ボクがいろいろ調べた上での説だけど、家庭料理でもなかったのに、沖縄でおでんが年中食べられるほど定着したのって、おでんの調理法によく似た沖縄料理の存在があったからじゃないかって。その料理は「煮付け」と「てびち汁」。どちらも、おでんのようにだしを使うでしょ?あと、具材もよく似ている。
それで、働きモノで料理自慢の沖縄の母ちゃんたちが、腕一本で仕事を始めようとした時に馴染みのある食材で一度に仕込みができる料理として、おでんが選ばれ、商売としての“沖縄おでん”が飲み屋街から広がっていったと思うんですよ。家事や子育てしながらもパッと仕込みができるし、だしも継ぎ足しでその店独自のコクが生まれる。沖縄のおでん飲み屋に行ったことがある人は知っていると思うけど、お店のだしって黒いのね。でも、聞くと、醤油は入っていない。ベースは鰹らしいけど、どうやら“沖縄おでん”ダネとして欠かせない、ウチナーンチュが大好きな昆布がクタクタに煮込まれて、だしにとけだしているかららしい。あと、てびちからも旨味エキスがだしに移っている。だから飴色でコク深い色と味わいになっているんだよね、きっと。
―“沖縄おでん”の特徴ってズバリなんでしょう?
てびちやソーキは有名だけど、ウィンナーがそのまま入っているのも沖縄らしい特徴だよね。煮込んでパックリ割れていたりしていると美味しそうに見える。あと、お店だと和がらしではなく、マスタードを添えているところも多いよね。おでんは沖縄でも“ちゃんぷるー文化”なんだと感じますよね(笑)。
あと、あらためて注目したいのは青菜類。お店でおでんを注文すると、“沖縄おでん”のオールスターが並ぶ皿の一番上に青菜類がのって運ばれてくる。おでんだしにサッと浸しているんだけど、これがほかのおでんダネとの相性がいい。レタスなんかの新しい食べ方として、本土の人にもマネしてもらいたいなーと思うよ。
そして、暑い夏の日もクーラーをガンガンにきかせたお店で、冷たいビールや泡盛と一緒に食べるのが、沖縄らしいんじゃないかな。
これぞ、“沖縄おでん”の特徴だ!
●“沖縄おでん”の王道ダネ、「てびち」 「ソーキ」があること
● 「レタス」「チンゲンサイ」などの青菜類も食べること
●クーラーがガンガンのおでん屋で年中食べられるということ
―飲み屋おでんに興味が湧いてきました。オススメのお店はありますか?
“THE沖縄おでん飲み屋”をあげるなら、那覇だと「東大」「おふくろ」「信濃路」「チキンとおでん葉津(本店は八重瀬町)」など、人気店はいっぱいあるよ。でも人気店はいつもいっぱいだから…。
近所に古くからある飲み屋街とかあったりしない?そこにおでんの看板が上がっている店があったら、入ってみてもいいと思う。あまりハズれはないんじゃないかな(笑)。
お店に足を運ぶ目的は、てびちを食べに行くことだとボクは思っている。まだお店でおでんを食べたことがないなら、その店のてびちの味と、本土でもウワサが轟いている黒いだし“飴色沖縄おでん”を直に体験してみるのも楽しいかもしれないね。
“沖縄おでん”のルーツは「飲み屋おでん」にあり!か。興味津々。でも、今すぐおでんが食べたいよって方にはやっぱりコンビニおでんが手軽ですよね。ということで続いては、沖縄ファミマの“沖縄おでん”のヒミツのアレコレも調査!
沖縄のコンビニおでんの先駆けは「沖縄ファミマ」
お話を伺ったのは、前回のおでん座談会でも登場した商品部の稲福さん。聞くと、20数年前に、本土風のおでんを沖縄のコンビニで初めて販売したのは、何を隠そう沖縄ファミマなんですって!
また、今でこそ、沖縄のコンビニおでんに普通に入っているてびちですが、これも沖縄ファミマが最初に取り入れたんだそうです。それに、てびちはすべて手作業で下処理を行い、その後にじっくり煮込んでいるそう。
【オススメ】
あじくーたー派のみなさん!
おでんダシを少し濃くしたい時は、てびちのポットからダシを少し取って加えるとイイ感じです!
てびちを煮込むための小さなポットも沖縄ファミマ発アイデア!
沖縄ファミマのおでんを楽しむための、5つの知っトク
沖縄コンビニおでんのパイオニアを自負する沖縄ファミマだからこそ、おでんは年々バージョンアップをしているそうです。そこで、2016年冬時点のこだわりや、楽しむコツなど5つにまとめてズバッとお届け!
1.「だし」にこだわる
ファミリーマートのおでんは、地域によってダシが違うのが特徴だそう。沖縄は全国でカツオ節の消費量がトップという、“カツオダシ好きの県民性”の嗜好に添い、カツオダシをベースにし、さらに2つの昆布ダシをプラスしているんだって!※そのこだわりはこちらをチェック!
2.おでんを年中売っているファミマも!
ファミリーマートのおでんの発売は8月からですが、一部店舗ではおでんを年中販売しているお店も。沖縄では50店ほどあるのだとか。あなたの近くのお店はどうですか?
3.豊富な品揃えを狙うなら、時間帯は17時頃を目指せ!?
おでんをいい感じに煮込むには、店舗で約1時間ほどもかかるのだそう。沖縄ファミマのおでんが1日のうちで最も売れる時間は18時頃なので、その時間に商品が並ぶように仕込んでいるのだとか。なので、おでんダネをいっぱいの中から選びたいなら、狙い目は17時から、を覚えておこう!
4.店長のこだわりが、おでんに反映される!?
店頭に並ぶおでんダネは、各店の店長が選んでいるので、ラインナップに違いがあったりもするようです。お店ごとに比べてみると、面白いかもしれませんね。
5.沖縄そばのトッピングはとろとろ軟骨ソーキだけじゃない!
おでん沖縄そば×てびち煮付け×青ネギと紅ショウガで「てびちそば」はいかが?
【全25種!】沖縄ファミマのおでんオールスターズ
沖縄ファミマのおでんメニューは、全国共通のものはもちろん、沖縄限定のオリジナルおでんダネ、そして九州や北陸のおいしい練りものを取り入れるなど、おでんで旅気分も味わえます。気軽にいろんな種類にトライしてみてね。
沖縄ファミマのおでんダネ、人気ランキングTOP10
最後に商品部稲福さんが教えてくれたのは、みんなが気になる、「沖縄ファミマのおでんダネ人気ランキング」~!さて、あなたの好きなおでんダネは何位かな?(2016年2月調べ)
第1位「国産厚切大根」
第2位「こだわり味付け玉子」
第3位「三角厚揚げ」
第4位「粗びきソーセージ」
第5位「国産結び白滝」
第6位「てびち煮つけ」
第7位「とろとろ軟骨ソーキ」
第8位「炭火焼鶏つくね串」
第9位「おでん沖縄そば」
第10位「ごぼう巻き」
意外にもローカル色が薫るおでんダネは、トップ3に入りを逃しているという結果に!これは驚きです。それだけ本土風のおでんが沖縄に浸透してきたということなんでしょうか。
ちなみに一番おでんを購入している世代は30代男性と30~50代女性で、おでんが1年で1番売れる時期は11月。そして、おでんと一緒に売れているベストマッチ商品は「おむすび」と「ビール」だと判明!また全国のファミマのなかでおでんの売り上げが堂々一位なのは沖縄ファミマって知ってました?へぇ!沖縄って意外と「おでん王国」なのですね。ぜひ本土から遊びにきてくれるお友達などにも紹介したいっ!
いやぁ、沖縄ファミマのおでんだけでも、いろいろなこだわりや本土との違いが見えて面白いですね。最後に、優しい語り口が耳に心地よかった嘉手川さんに、どんな“沖縄おでん”ダネがコンビニにあったら嬉しいですか?と伺ってみたところ、笑顔で「煮クーター昆布と、中味!」と応えてくださいましたよ。沖縄ファミマのおでんに登場するといいナ~!
“沖縄おでん”のことを調べていたら、ムショーにおでんが食べたくなっちゃいました。さぁ、スーパーなどで具材を買い揃えて自宅でおでん鍋をするもよし、黒いだしが気になる飲み屋おでんで一杯楽しむのもよし、手軽に進化系沖縄おでんを楽しめるコンビニおでんを食べるもよし!
あなたは、今どの“沖縄おでん”気分ですか?
【プロフィール】嘉手川学(かでかわまなぶ)
フリーライター兼時々編集者。沖縄の歴史や文化、風土、民俗、カルチャーなどを得意とし、特に食文化に明るいことで知られる。「沖縄チャンプルー事典(山と渓谷社)」「旅の指さし会話帳国内編沖縄(生活情報センター出版局)」「沖縄オバー食堂(双葉社)」「嘉手川学の古食堂味巡り(東洋企画)」ほか著書、共著、編集なども多数あり。2015年暮れよりインターネット新聞「泡盛新聞」の編集主幹も務める。
※参考文献
オキナワなんでも事典 池澤夏樹篇 新潮文庫/沖縄大衆食堂 仲村清司と腹ぺこチャンプラーズ 双葉社/旅するキーワード沖縄 監修:下川裕治 著者:旅するキーワード取材班
撮影協力:おでん東大