目次
1.沖縄のジュールクニチー(十六日祭)とは?2024年はいつ?
旧暦行事が今も残る沖縄では、新正月とともに旧正月も祝われていますよね。新正月は全国的な習慣に倣いお屠蘇をいただいたり、鏡餅を飾ったりしますが、旧正月ではヒヌカン(火の神様)やお仏壇へ感謝の拝みを捧げます。
けれども沖縄の人々にとって旧正月はあくまでも「イチミ(生きる身=生きている者)」のお正月!対して後生(グソー=あの世)にもお正月があるのはご存知でしょうか。その日が旧暦1月16日に行われる「ジュールクニチー(十六日祭)」です!
2024年の旧暦1月16日は「2月25日 日曜日」になります。
旧正月にいらっしゃる年神様が去った後、ご先祖様とご馳走を囲み改めてお正月を祝います。
では今回は、沖縄南部の漁師町で暮らす濱比嘉珠子(はまひがたまこ)が、沖縄に今も残る「後生(グソー=あの世)」のお正月、ジュールクニチー(十六日祭)について、逸話や拝み方をお伝えします♪
2.沖縄本島のジュールクニチー(十六日祭)のお供え物や拝み方
普段行う、本島のジュールクニチー(十六日祭)
グソー(後生=あの世)の正月ジュールクニチー(十六日祭)は、主に離島が盛大に執り行う旧暦行事で、本島ではささやかな御願が多いでしょう。
本島でジュールクニチーを行う家では、朝からヒヌカン(火の神様)へご報告した後、地域によってさまざまですが、ウチャワキ(お茶脇=おかず)を配した御膳を供える家が一般的です。
ウチャワキ(お茶脇)に多いおかずは豚三枚肉や大根などの煮物で、一緒に果物の盛り合わせとムイグァーシ(お菓子)を一皿ずつ供える家もあります。
御膳にはお箸やウチカビも乗せてください。ウチカビは家長が5枚、その他の家族は3枚ずつとして揃えます。
御願の時に供えるお線香の本数は「十二本御香(ジュウニフンウコー)」の平御香(ヒラウコー=沖縄線香)をタヒラ(二枚)です。家長以外の家族が拝む時には、半ヒラ(半分)とします。
ただし、ミーサー(新霊)がいるお家では一年~三年はジュールクニチーを行う家が多いでしょう。代わりに沖縄本島で盛大なお墓参り行事「清明祭(シーミー)」を控えます。
ミーサー(新仏)とは?
ミーサー(新仏)とは、亡くなってからまだ一年廻っていない仏様を差します。沖縄本島ではジュールクニチーは専ら、ミーサー(新仏)がいるお家の行事です。
この故人が亡くなって初めて迎えるジュールクニチーを「ミージュールクニチー(新十六日)」と呼びますが、家族が亡くなって二~三年目まで、ジュールクニチーを行う家も多いでしょう。
ミーサー(新仏)のいるお家では、朝からお墓参りをして迎え入れ、御仏前でジュールクニチーを行います。親戚もお線香をあげに集まるのが昔ながらの習慣です。
沖縄本島でミーサー(新仏)がいるお家では、朝一番にヒヌカン(火の神様)へ、今日の日がジュールクニチーの日であることを報告します。
お墓参りでお迎え~ヒジャイヌガミへご報告~
続いてミーサー(新仏)がいるお家では、家族のみで朝からお墓参りをして、お出迎えをします。(アンネーウグァン=案内の御願)最初にお墓を掃除し、ヒジャイヌガミ(左神)へ拝みご報告した後、中央のご先祖様へ拝みご案内をしてください。
ヒジャイヌガミ(左神)は墓地を守る神様で、お墓の左側に鎮座されています。(拝む側からは向かって右側です。)
(1)ヒジャイヌガミ(左神)へ、ヒラウコー(沖縄線香)タヒラ(二枚)を供え、お墓の掃除をすることを、感謝とともにご報告する。
(2)掃除の後、ヒジャイヌガミ(左神)へジュールクニチーであることを、ヒラウコー(平御香=沖縄線香)をタヒラ(二枚)とシルカビを供えて、感謝とともにご報告します。
「ウートゥートゥー、ヒジャイヌガナシー(あな尊き 左神様)、チャークマ ウマムイジュラスァウタビミスーリー、ウシディガフーディンビル。(いつもこのお墓を守ってくださり、誠にありがとうございます。)
チューヤ 〇〇(故人の干支)ウマレヌ○○(故人の性別)ヌジュールクニチーヌ、アンネーシガネイビタン。(今日は○○生まれの○○の十六日の案内をしに来ました。)」
地域によってイントネーションや選ぶ言葉にも違いはありますが、大まかにこのような拝みを行うお家が多いでしょう。大きな声でお伝えすれば、現代の言葉でも全く問題はありません♪
(3)拝んだ後、供えたシルカビは焚きあげ、最後にお酒を掛けて、ヒジャイヌガミ(左神)様への感謝とご報告の御願は終了です。
お墓参りでお迎え~ご先祖様をご案内~
ヒジャイヌガミ(左神)様へのご報告の御願を終えたら、中央のご先祖様へうさぎむん(お供え物)を供え、ご案内の御願をします。
うさぎむん(お供え物)は、ウサク(お酒)・ウチャトゥ(お茶)・ミジトゥ(お水)に供え花を手向け、ヒラウコー(沖縄線香)はタヒラ(二枚)です。屋外の御願なので、ウサク(お酒)もワンカップなどの市販品を供える家も見受けます。
ご先祖様へのご案内も、お家や地域によって拝みの言葉はさまざまですが、大まかに下記のような事柄をお伝えすると良いでしょう。
「ウートゥートゥー ウヤフジガナシー
(あな尊き ご先祖様)、
チューヤ○○ウマレヌ○○ヌジュールクニチーヌヒー ナトゥリビン
(今日は○○生まれの○○の十六日の日になりました)。
チューヤ チネーサンムトゥ ウトーティ、ジュールクニチヌ ウトゥイムチサビングトゥ、ヤーンカイウキトゥイガン メンスーチークィムスーリー
(今日は家でおもてなしをしますので、受け取ってください)、
ウートゥートゥ
(あな 尊い)。」
お仏壇でのおもてなし・お供え物
ミーサー(新仏)がいるお家では、親族も焼香に訪れて盛大に執り行います。弔事用で供え、法事と同じように供えますが、最近ではウサンミ(御三味=重箱料理)がカタシー(片方=二重のみ)になるなど、焼香客の人数に合わせて供える傾向です。
(1)お仏壇へのうさぎむん(お供え物)
ウチャトゥ(お茶)とウサク(お酒)、果物の盛り合わせ、ムイグァーシ(お菓子)とウサンミ(御三味=重箱料理)をチュクン(お餅二重+おかず二重)の他、地域によっては旧盆と同じように七個のダーグ(お団子)を供える家もあります。
焼香に訪れた親族の持参したお供え物(志)もお仏壇まわりにお供えして、ウチカビを上に添えてください。ウサンミ(重箱料理)の上にもウチカビを乗せます。
ウサンミ(重箱料理)はおかずを少しずつひっくり返して重箱の上に乗せて「ウハチ(お初)」とします。
(2)ジュールクニチーの御願
最初にお家の家長がタヒラ(二枚)のヒラウコー(沖縄線香)を供えたら、続いて家族や集まった親族がそれぞれ半ヒラ(半分の日本線香3本分)をお仏壇のウコール(香炉)に供えてください。
「ウートゥートゥ チューヌヒガラントゥ、ジュールクニチーヌグクユー アギトゥリビン
(なむかしこ 今日の良き日に十六日の供養を上げております)。
ウスネームンヌシナジナ アギャビティ
(お供え物の品々をお供えし)、
ウグァンタティスゥイビィングトゥ、ウキトゥイジュラスァ ウタビミスーリー
(御願をしておりますので受け取ってください)。
○○(干支)ヌ○○(性別)、ジョーブツシミティー、グクラクトゥーリー ウタビミスーリー
(○○の○○(故人の干支と性別)が、成仏して極楽へ通りますように)。」
こちらも家によってさまざまですが、ミーサー(新仏)が無事に成仏して極楽浄土へ行くよう、御願立てをします。
拝んだ後は旧盆やシーミー(清明祭)などと同じです。ウチカビを焚いたら、焚いたカビバーチ(火鉢)にウハチ(お初)を入れ、お酒を掛けた後に家の外に灰を撒く習慣がありますが、最近ではウハチ(お初)は別皿に取り分け、お仏壇に改めて供える家も多いでしょう。
3.離島地域でのジュールクニチー(十六日祭)
このように沖縄本島では一部を除いて、ミーサー(新仏)がいるお家を中心に行う旧暦行事ですが、八重山・宮古島など離島地域では盛大なお墓参り行事です。
親達の職場が半ドンになるばかりか、小学校まで半ドン!午前中に下校して、みんなで十六日を行います。沖縄本島や本州へと移住した離島地域の人々は、この時期目掛けて帰省するため、フェリーも臨時便が出航するほどです!
と言うのも、離島地域では沖縄本島では盛大に行うお墓参り行事のシーミー(清明祭)を行わない地域も多いです。そのため、沖縄本島のシーミー(清明祭)に代わる行事としてジュールクニチー(十六日祭)があります。
●離島地域でのジュールクニチー(十六日祭)の進め方
沖縄本島のジュールクニチーでお伝えした、お仏壇での御願をそのまま墓前で行う地域が多いでしょう。
シーミー(清明祭)と同じように、墓前でご先祖様を前に敷物を広げてご馳走を囲み、親族が集まる、まるで無礼講のピクニックのような行事ですが、シーミー(清明祭)のウサンミ(重箱料理)が慶事用であるのに対して、ジュールクニチーは弔事用で揃えます。
早くから親族が墓前に集まるため、ムチスク(トートーメーを祀る家)は事前にお墓の掃除を済ませてから、当日に臨む家が多いです。
本島に移住した離島地域の人々が、このジュールクニチーに三重城(みえぐすく)から故郷に向かい御願を行い遥拝する風景も、今では風物詩となっていますよね。
4.沖縄でジュールクニチー(十六日祭)が根付く由来・逸話
このように沖縄本島ではミーサー(新仏)のいるお家で行う旧暦行事(家によって二年目・三年目まで)とされていますが、北部や南部など旧暦行事が盛んな地域では、今もお仏壇へ御膳を供え、大切に扱われていることに変わりはありません。
そんなジュールクニチーの逸話はさまざまあります。
正月気分の競馬場で大勢の人々が盛り上がるなか、愛する人を亡くして悲しむ美女が一人、お墓参りをしている姿がありました。その姿を見た人々が翌日の旧暦1月16日にお墓参りをするようになった…、などの逸話です。
また、親孝行の息子が両親亡き後、親を偲んで十六日の月夜にひとり、お供え物を持ってお墓参りへ行くと、父親が現れて夜じゅう飲んでいた…、と言う夢をみました。翌朝慌ててお墓へ行くと、ないはずのお供え物が墓前にあったとか!
また沖縄南部の一部地域では、お正月に来る年神様がいる間はご先祖様をお参りできないとされたため、年神様が15日にお帰りになると翌日16日にお墓参りに行った…、との言い伝えもあります。
この他、月読みである旧暦では旧正月は新月です。対して旧暦1月15日は満月に当たり、満月直後から数日は水面に映る月の光が太く映り輝くため、「あの世とこの世を繋ぐ橋が架かる」と考えたためとも言われてきました。
他にもさまざまな逸話がありますが、どのストーリーを選ぶのかは、現代では人それぞれですね♪グソー(後生)にいる大切な魂を偲び繋がる日として、より心に添う逸話を信じれば良いのではないでしょうか。
参考文献
琉球新報社|沖縄には正月が3つある!! 沖縄の人は知っているが、県外の人は知らない沖縄の正月|琉球新報Style. 2017
南山舎株式会社|十六日祭の由来|やいまタイム. 2017
南山舎株式会社|十六日祭〈2021年は2月27日(土)〉|やいまタイム. 2021
沖縄県公文書館|清明祭(シーミー・ウシーミー)|沖縄県公文書館