2016.12.19

10年続く「もとぶ手作り市」繋がる笑顔の輪を生み出したある一組の夫婦のかたち


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沖縄県北部西側に位置する本部町(もとぶちょう)は、沖縄美ら海(ちゅらうみ)水族館がある観光客で賑わうスポット。カツオ漁が盛んな渡久地港(とぐちこう)に佇むのはノスタルジックな本部町営市場。市場の中は迷路のよう。

港町ならではの新鮮な魚がずらりと並ぶ鮮魚店のほかハンドメイド雑貨店や喫茶店などが点在し、緩やかな時間が流れています。そんな市場の一角に、本部町在住の知念正作、沙織(ちねんしょうさく、さおり)夫婦が営む「自家焙煎珈琲みちくさ」があります。

そこは、いつも愉快な仲間たちが訪れて和やかな空間を醸し出しています。まだお店を持たない頃に、知念夫妻は手作り品を持ち寄るフリーマーケットを仲間と一緒にスタートさせました。今回は10周年を迎えた「もとぶ手作り市」にお邪魔して「地域マルシェを長く続ける秘訣」を尋ねてみました。


今年で10周年!地域マルシェを長く続ける秘訣とは?

DSC_8047_1お客さんとのやり取りもあくまでマイペースな微笑ましい二人

店主の正作さんは摩訶不思議な雰囲気を持つユニークな印象。奥さんの沙織さんはニッコリとした笑顔で迎えてくれました。珈琲を頼んでカウンターに座ってみると、もとぶ手作り市のチラシを見せてきて「今度が10周年なんだよね~」話し出します。「すごいね! 月イチマルシェで10年続いたんでしょ?」と驚きを隠さず話しても「そうなんだよね~」とまるで他人事のよう。これはナカナカ手強い相手かも、、、そんな感じで取材がはじまりました。

ー市場にお店を出したのはいつ頃なんですか?

正作:「いつだったかな~。あれは・・・よく覚えてないや、沙織に聞いてみてや。」

沙織:「あれは確か娘が生まれた時だったから確か平成21年の4月だったはずね。」

ーあ、じゃぁもとぶ手作り市の方が先に生まれたんですね。手作り市をやろうとしたきっかけは?

沙織:「あの頃は本当にお金がなくて極貧で・・・何とかお金を作らなくちゃって・・・それで自分たちが染めたTシャツとか売ろうと始めたんですよ(笑)」

ーそ、そうだったんですね、そこから10年続くっていうのもスゴイですね。ズバリ!「地域マルシェを長く続ける秘訣」って何でしょう?

正作:えーっと・・・正直、あんまり真面目にやらない(笑)。あと、過去のことを色々忘れる。つらかったことも楽しかったことも含めて。あ、そろそろ準備しなくちゃ・・・。

予想通り、なかなか何も聞き出せないままに・・・慌ただしく準備がはじまり、いよいよ10周年を迎えた「もとぶ手作り市」のスタート。今度は会場で参加しいてる皆さんに聞いてみましょう。


「ゆる~い感覚」が特徴?参加者から見えてくるもとぶ手作り市の魅力

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会場は、朝早くから本部手作り市を楽しみにしている人たちでワイワイガヤガヤ。屋根付きの広場には、たくさんの出店者が集い、迷路のような町営市場の中にも、ユニークな店舗や空きスペースを利用している出店者もいます。

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まずは「オランダのおいしいもの」という意味の名を持つ『Lekker Nijen(レッカル ネエン)』。スパイスをふんだんに使った香ばしいオランダの焼き菓子や、野菜がたっぷりの自家製キッシュが並びます。4年前から参加しているベテラン組。

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ーピーターさんにとってもとぶ手作り市ってどんな場所ですか?

ピーター:「そうですね、いつも楽しくて明るいよ。懐かしい沖縄の雰囲気が残っていて、おばぁちゃんたちに守られているような気持ち。自然があって昔の文化が受け継がれていて、バックグラウンド関係なく多彩でユニークな人たちが集まれる感じが好きです。」

DSC_5642_1名護の市営市場の中で可愛らしい雑貨店「イマル商店」を営む店主の素敵な笑顔。

確かに、訪れる人たちを見ているとは「何かが欲しい」だけでなく、「何かに出会える」ような印象を受けます。

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羊毛フェルト作家「島しまかいしゃ」の奥野美和さん。もとぶ手作り市を経て、もとぶ町営市場内に店舗を構えることとなりました。

次は市場に店舗を構える羊毛フェルト作家「島しまかいしゃ」の奥野美和さん。「アカショウビン」や「ヤンバルクイナ」など沖縄に生息する鳥や、海の生き物「ジンベエザメ」「カクレクマノミ」などをモチーフにユニークな手作り羊毛フェルトのブローチを展示販売しています。

元々、もとぶ手作り市に参加して販売しているうちに、市場にお店を持つことに。本人曰く「気づいたらお店を開いちゃってたんだよね~」と、主催者同様ゆる~い反応。この”ゆる~い感覚”はこのマルシェの共通認識なの!? 謎は深まるばかりです。


    「自分が手作り市」当事者意識を持つ人々が強い絆を作り出す

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    もとぶ手作り市がはじまった頃から町営市場に自然食品を販売する「すこやか農場」を営むシズコさん。10年間、町営市場の住人としてどのような目線で知念夫妻を見ていたのか伺ってみました。

    シズコ:「あの夫婦とはね、本当によく話すのよ。話し出すと熱くなっちゃってね。町のことも、島のことも、国のことも、海外のことも気になったらとことん「みちくさ」へ言って語り合うのよ。そういう裏表のない本気で話が出来る場所ね、ここは。しかも珈琲も頼まずに、、、あはは(笑)」

    ー市場の人たちの10年の絆ですね。

    シズコ:「手作り市に来る人たちは移住者や色んなタイプの人がいて、分け隔てなく受け入れるのが二人の魅力。移住してくる人もいれば、島を離れていく人もいる。迎えるのも送り出すのも二人はただ受け入れている。移住者の中には、この町に移り住んで子どもを授かったミュージシャンもいて。

    彼は「自分が手作り市」と思ってるからね。今日も後で演奏するはずよ。でも、そういう「自分が手作り市」っていう人たちが集まってるから続いてるんじゃないかしら。」

    どうやら、緩さと懐の深さを併せ持つ知念夫婦のまわりには「自分が手作り市」という方々が集っているようです。

    DSC_5980_110周年を祝う手作りのサーターアンダギーのタワーケーキに火をつける沙織さん。

    賑やかな手作り市も佳境になり、密かに用意されていたサーターアンダギーのタワーケーキが登場に子供たちが目を輝かせて集まってきました。みんなでバースデーソングをうたって市場は温かい空気で包まれていきます。

    DSC_6020_1雨のなか、弾き語りライブの音響を手伝う正作さん

    シズコさんが話してくれた、本部町に移住したミュージシャンPeace-K(ピースケ)が登場。5年前に本部町に腰を据えて今では1児のパパになったそうです。手作り市を愛してやまない彼は、ウクレレを持ってライブ演奏をします。「10周年、僕が歌わなくちゃはじまらないよ~!」

    Peace-K:「移住して間もない頃、大きな消費が進む世の中で、沖縄の本部町という町で開かれていた手作り市にとっても感動しました。手作りで交わう人と人との輪から生まれる豊かさがある。心が豊かでいられる小さな平和を生み出した知念夫妻、もとぶ手作り市にありがとう!」

    この日はあいにくの土砂降り雨。でも、10年も続けていると、それも「恵みの雨」と自然に受け入れられる。会場で歌を聴く人々の顔は、笑顔に満ちていました。


    目の前の繋がりや笑顔を大切にしていたら10年続いていた

    DSC_5686_1この日手作りのクリスマスリースを販売している今帰仁村からやってきたフラワーアーティストもこの笑顔

    笑顔溢れる手作り市。「誰もが月に一度笑顔を交わす場がそこにある」そんな、あたたかな場所。ひとしきり見て回ったところで、再び知念夫婦にお話しを。

    ーあらためて10周年を振り返ってどんな気持ちですか?

    沙織:「始めた頃からずっと手作り市に出てくれている人もいるし、手作り市がきっかけで独立した人も。本当に色んな人が参加してくれました。私たちが頼りないってのもあるのかもしれないけれど(笑)、続けていくうちに出店者が勝手に成長して新しい出店者の人たちに手順を教えてくれるようになったり。

    人気ブランドのmillie haven(ミル ヘイヴォン)とか染め物のDoucatty(ドゥカティ)も手作り市出身。Doucattyなんて台所で染めてたこともあったね(笑)。新しい人たちが加わったり、巣立っていったりの連続。」

    ー知念夫婦の「ゆる~い」部分が、参加者たちに「自分が手作り市」という当事者としての思いを育んでいくのかもしれませんね。

    正作:「手作り市は「あまり気負わない」こともしてるかな。本気かけちゃうと疲れちゃうし飽きちゃうから。子どもの頃、市場には鮮魚店のほかに洋装店やおもちゃ屋、駄菓子屋が集まってた。自分のおばぁも働いていて。

    学校から帰って来て小銭を握りしめて駄菓子屋とか行ってね(笑)そんな馴染みの場所で店を持ちたかった。昔は11店舗も空いている状態だったけど、10年経ったらほぼ埋まった。最近やちむん(陶器)やガラス作家さんなんかも店を始めて昔と違う一面を見せてきてて、それも面白い。」

    ーなんか、、、地域振興を独自で10年やっちゃった感じですね(笑)。

    正作:「確かに。ここはもっと観光客が来ても良いスポットだと思うからね。そして長い時間を過ごしてもらいたいよね。」

    ー最後に知念正作、沙織さん夫婦からファミマガを読んでいる皆さんにメッセージをお願いします。

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    沙織:「月に一度の”ゆる~いつながり”を大切にしてたら10年が経っていました。といっても、私たちはただ毎月の行事を続けていた感じです。ここには笑いあり、涙あり、素敵な出会いの場があります。これからも毎月第3日曜日に手作り市をやっていますので、気軽に遊びにきてください。手作り市に合わせて沖縄に来たという方もいます。今ではこの市場自体が観光スポット。是非のんびりした時間を楽しんでください。」

     


    取材を終えて
    手作り市を見渡して、お二人の話を聞いていると「ゆる~く」「気負わず」「フラットな」感じが長続きの理由だと思いました。そこに、周りの方が「当事者」としてコミットできる余裕が生まれるのかもしれません。新たな人を迎え、巣立つ人を見送っていく。それを受け入れる懐の深さ。

    良かったこと悪かったこともすぐに忘れることで、日常の延長線として「気負わない地域マルシェ」が続いていくのかもしれません。結局「地域マルシェの長続きの秘訣」のズバリ!は聞けなかったけれど、ここに来れば長続きする理由はわかると思います。

    来てみると「お互い毎日色々あるけれど、月に一度のこの日には、一緒に笑顔で吹き飛ばそうよ。」そんな気持ちになれるはず。地域マルシェをこれからやりたい人もそうでない方も、是非もとぶ手作り市の”ゆる~いつながり”を味わってみてください。


    【もとぶ手作り市】
    本部町営市場で毎月第3日曜日に開催される手作り市。新鮮な野菜や果物、焼き菓子、クラフトなどバラエティに富んだラインナップ。ストリートライブなども行なわれ、作り手と会話をしながら、地元の美味しいものを食べられるイベント。

    [開催場所]本部町営市場
    [開催日]毎月第3日曜日
    [開催時間]10:00~16:00頃

    【知念正作、沙織】
    本部町在住。本部町営市場にて「自家焙煎珈琲みちくさ」を営んでいる。市場内で文具店を営む友寄隆夫(ともよせたかお)氏と一緒に「もとぶ手作り市実行委員」として10年前に「もとぶ手作り市」をスタート。

     

    ライター:monobox株式会社(河野哲昌・こずえ)
    HP:http://www.monobox.jp/